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第65話 変化

僕はパンフレットを拾い上げてぼんやりと見つめる。 ほんとに…?この家から出れるの?…有本さん…何かしてくれた…? パンフレットを持つ手が小さく震える。 それに…祖父は蒼とは離すって言った。僕も、そうしたい…。 僕が誰ともセックスしなくなってから、当然のように蒼一朗も僕を抱かなくなった。 嫌な事を我慢しなくてもよくなって、ほっとしたものの、蒼一朗を求める身体を我慢しなければならなくなってしまった。 それが、とても辛かったんだ。 傍にいるから求めてしまう。きっと離れれば、蒼一朗を欲する気持ちは薄れていくだろう…。 だから、蒼一朗と離すと言われて、少し安堵した自分がいた。 僕が来年には家を出る事、蒼一朗から離れる事を知ってるのか知らないのか、彼はいつもと変わらず僕に接してくる。蒼一朗がいつも通りだから、僕もいつもと同じように過ごした。 もう彼に触れないようにしなきゃ、と思うのに、どうしても時々悪夢を見てしまって、その度に彼に抱きしめられてキスされる。僕が震えるのを我慢して蒼一朗の胸を押しやっても、強い力で引き寄せられ、俯いた僕の顎を掴んで強引に唇を吸ってくるんだ。 僕とセックスしてくれないくせに、そうやって触れられると、僕の腰の奥がじくじくと熱く蠢いて堪らなくなる。 もう、僕の欲しいものをくれないなら触れないでほしい。 そう願うのに、蒼一朗は優しく髪を撫で、深く激しく唇を貪るのをやめてくれなかった。 そんな思いを紛らわせるように、僕は勉強に没頭した。普段から学校が終わると、真っ直ぐ離れに帰って勉強をしていたし、休みの日もどこにも行かないで本を読むか勉強をしていたから、成績はずっと上位だった。 でも確実にここを出る為に、蒼一朗から離れる為にも、もっと勉強に励んだ。 毎日勉強ばかりしていたけど、僕の誕生日にいつもの海へ行こう、という蒼一朗の誘いに素直に従った。 いつもの海に行って、二人で砂浜に座って後ろから蒼一朗に抱きしめられる。 「燈、生まれてきてくれてありがとう」 そう言って、僕の冷えた頰に頰を擦り寄せて、そっと口付けてきた。 毎年、父さん母さんを思って涙を流していたけど、この日、僕は切なくて涙を零したんだ。

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