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第68話 夢から醒めて
誰かが僕の髪の毛を撫でている。目を開けようと瞼を揺らすと、残っていた涙が一つ、目尻から溢れた。そこに誰かが口付ける。
蒼……?
僕は睫毛を震わせて、ゆっくりと瞼を開いた。何度か瞬きをして目の焦点を合わせる。僕の目の前にいたのは…。心配そうに僕を見ている蒼一朗だった。
僕と目が合うと、一瞬泣きそうな顔をして僕の上に被さってきた。何度も僕の名前を呼んで搔き抱く。
僕は蒼一朗の背中にそっと手を回して、周りに目を向けた。
白い天井と、すぐ横の窓から青い空が見える。僕の寝ているベットの周りにカーテンが引かれるようになっていて、保健室に似ているけど違うみたいだ。…ここは…?
そこまで考えて、はっとして首に手を当てる。僕の首には包帯が巻かれていた。
そうだ……僕は…。
蒼一朗が身体を起こして僕を見つめる。彼の瞳の中が、揺れてるように見えた。
「…そう……怒って、る…?」
僕の声が掠れて出しにくい。
蒼一朗が僕の頰を両手で挟んで、額を合わせた。
間近に彼の整った顔が見える。
「ああ…怒ってるよ。燈…俺のいない所でこういう事はするな…。おまえに置いて行かれるのかと怖かった。するなら俺が傍にいる時にやれ…。そうじゃないと一緒に行けないだろ……」
そう言うと、そっと唇を合わせてきた。彼の唇が震えている。
ーーそんなに怖かったの?そんな風に言われると、僕はまた勘違いをしてしまいそうだよ…。
蒼一朗の震えが移ったのか、僕も唇を震わせながら何度もお互いの唇を合わせた。
しばらくそうしてると、ノックの音がしたと同時に扉が開いた。二人して、ぱっと顔を離して扉を見る。そこには花を抱えた大輝が立っていた。
一瞬、戸惑ったように見えたけど、僕の傍に駆けて来て手をぎゅっと握る。
「燈っ?良かった…っ。目が覚めて…。俺がわかる?大丈夫?」
大輝の勢いに驚いて、一瞬ぼんやりしてしまったけど、僕は「大丈夫だよ…」と彼の手を握り返した。
「良かった…ほんとに良かった…っ。燈、喋るの辛かったら無理しなくていいよ…」
目に涙を浮かべて鼻をずずっと啜りながら、大輝が喋るのが可笑しくて、僕は「ふふっ」と少しだけ笑ってしまった。
相変わらず大輝は賑やかだ…。
その明るい雰囲気に、僕は暗い胸の奥にぽわりと小さな灯りが灯った気がした。
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