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第70話 告白

医者の先生は五十代前半ぐらいの、少し白髪の混じった柔らかい感じの人だった。 「成瀬くん、目が覚めて良かったよ。傷はそこまで深くなかったのに、中々起きないから心配したんだよ。君が眠っている間に色々と検査させてもらったけど、傷以外はどこも悪くなかったから。今日は傷口だけ見て、大丈夫だったら退院してもらってもいいけど…どうする?」 先生は、にこにこしながら聞いてきた。 「僕は今日、帰りたいです…」 僕は蒼一朗の顔を見て、小さく呟く。 「そう、わかった。じゃあ今から見させてもらうね」 僕が頷くと、蒼一朗が代わりに「お願いします」と先生に頭を下げた。 先生が、後ろから付いて来ていた看護師に指示を出して、首の包帯を取って傷を見たり薬を塗ったりしていく。僕は処置が終わるまで、ずっと目を閉じていた。 もう一度包帯が巻かれて、僕はゆっくり瞼を上げる。 「うん、少し痕が残るかもしれないけど、きれいに治ると思うよ。週に一度、傷口を見せに来てくれるかな?後は家で出来るように、色々渡しておくけど…」 「大丈夫です。俺がちゃんと手当てしますので」 蒼一朗が先生に向かって言うと、先生はにっこり笑った。 「そうかい?わかった、よろしく頼むよ。じゃあ成瀬くん、無理をしたら駄目だよ」 そう言って、僕の肩をポンと軽く叩いて出て行った。 蒼一朗が部屋の出口まで見送って、先生にお礼を言った。 蒼一朗がベッドの周りを片付けてると、大輝が戻って来て、「えっ、もしかして帰っていいんですか?」と蒼一朗に聞く。 「そうだ。だいたい荷物はまとめてある。俺は会計を済ませて車を回して来るから、忘れ物がないかチェックして、燈を玄関まで連れて来てくれるか?そこのナースステーションで車椅子を借りれるから」 蒼一朗は大輝に頼むと、僕の頭を一つ撫でて大きな鞄を持って出て行った。 大輝が僕を見て嬉しそうに言う。 「良かった…大したことなくて、早く退院出来て…」 そして少し俯いた後に、真剣な顔で僕を見てきた。 「燈…俺、燈が倒れてるのを見た時、すごく怖かった。なんでそばにいて守ってやらなかったんだろう、ってめちゃくちゃ後悔した。俺さ…燈に嫌われたらどうしよう…って言えなかったけど、やっぱりちゃんと伝えたい。俺は、燈が好きだ。友達の好きじゃなくて、恋愛の対象として、燈のことが大好きだ。…大好きで、あ…あ、愛して、る……」 だんだんと声が小さくなって、最後の方が消えそうだったけど…。え?僕を好きって…愛って…。 「大輝…」 僕が名前を呼ぶと、顔から火が出るんじゃないかってくらい赤くなって、でも僕の手を握ってしっかりと目を合わせてきた。 「返事はしてもしなくてもいい…。だって、例え燈に嫌だ、気持ち悪い、って言われたって、俺は燈の事、ずっと好きだから。ごめんな。たぶん、迷惑だって言われても諦められない…」 僕の手を握る大輝の手が汗ばんでいた。 誰かから、こんなに真剣に好きと言われたのが初めてで、僕はとても戸惑ってしまう。 だって、僕を抱いた人達は、僕のことを好きだと言ったけど、それは僕の身体の事で。 蒼一朗は、僕のことを愛しい、必要だとは言ってくれるけど、好きとか愛してるは言ったことなくて。 だから、本当に僕のことが好きなんだ、と感じられる大輝の言葉が、戸惑いながらも嬉しいと思った。 そして僕の暗い胸の奥に、また灯りが灯った気がした。

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