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第71話 執着

ベッドの周りを確認した後、大輝が車椅子を借りて来てくれた。大輝に押してもらって玄関へ向かう。 大輝の方をちらりと窺うと、僕の視線に気付いた彼が、後ろから話しかけてきた。 「燈さ、俺が言ったこと、そんなに重く考えないで今までと同じにしてくれたらいいから。でも、少しでも俺のこと気にしてくれたら、すげぇ嬉しい」 僕を覗き込んできた大輝の笑顔に、少し恥ずかしくなって、僕は俯いて「うん…」と小さく頷いた。 病院の玄関に着くと、すでに蒼一朗が車の前で待っていた。大輝にお礼を言って、僕を抱き上げる。車のドアを開けて助手席に僕を座らせた。 「君も乗って行って」 蒼一朗が、大輝を振り返って言った。 「え?いえ、俺、帰りに寄りたい所があるし、大丈夫です。えっと、この車椅子、返しておきますね。じゃあ燈、また連絡するよ…。ゆっくり休むんだぞ」 大輝は、僕に笑顔で手を振って蒼一朗に軽く頭を下げると、車椅子を押して、もう一度病院の中へ戻って行った。 蒼一朗が「ありがとう」と大輝に声をかけて、僕の方に向き直り、シートベルトを締めてくれた。ドアを閉めて、自身も運転席に乗り込んでシートベルトを締めると、「じゃあ行こうか」と一瞬、僕の顔をじっと見つめてから車を出した。 家に着いて中へ入ると、蒼一朗は僕の手を引いてリビングへ行く。鞄を置いて僕をソファーへ座らせた。エアコンのスイッチを入れてキッチンへ行き、冷蔵庫から水のペットボトルを出して持って来た。 「昼飯作るし、ちょっと待ってて。ご飯食べたら休む?」 ペットボトルを僕に渡しながら聞いてきた。 「うん…蒼、お風呂に入りたい…。だって、二日間入ってないでしょ?」 「そうだな。ご飯を食べ終わったら俺が入れてやる」 蒼一朗は僕の顔にかかった髪を耳の後ろに流して、その手で頰をするりと撫でるとキッチンに戻って行った。 ご飯の後に、首の包帯が濡れないようにビニールを巻いて、蒼一朗がシャワーで僕の頭と身体を洗ってくれた。自身の身体もさっと洗ってから風呂場を出て、僕の身体と自分の身体を拭く。 それから僕を部屋に連れて行き、ベッドに座らせて髪の毛を乾かす。終わると「少し休め」と言って、ベッドに寝かされた。 「蒼…そばにいてよ」 蒼一朗の腕に触れて頼むと「わかった」と微笑んで隣に寝転び、僕の身体に腕を回して抱き寄せた。

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