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第75話 執着
ひんやりとした物が僕の額に触れ、ゆっくりと目を開ける。閉じたカーテンの隙間から明るい陽が差し込んできている。ベッドのそばで蒼一朗がほっとした様子で、僕の髪の毛を撫でた。
「燈…ごめん…。昨日、俺止まらなくて…。まだ怪我も治ってない燈に無理をさせた…ごめん」
髪の毛を撫でていた手で、今度は頰を撫でる。
「気分はどう?昨日、あの後からずっと起きなくて、熱も出てるんだ。お粥を作るけど、少しくらい食べれそう?」
気分は悪くないけど、頭が少しぼうっとする…。でもお腹は空いていたので「食べる…」と呟いた。
蒼一朗は「わかった」と頷いて、一旦部屋を出て行き、スポーツドリンクのペットボトルとコップ、濡れたタオルを持って戻って来た。
背中を支えて僕を起こしてくれたけど、僕は身体中がぎしぎしと痛くて、小さく悲鳴を上げた。全身がひどい筋肉痛のようで、少し動かすだけでもつらい。特に腰周りが力を入れようとすると、震えて全く動かすことが出来なかった。
なんとか、背中に枕を挟んで座らせてもらう。
蒼一朗が、とても申し訳なさそうな顔をして、スポーツドリンクをコップに入れて渡してきた。僕がそれを飲んでる間に、クローゼットから替えの服を出してくる。
「汗をかいてるから先に着替えるぞ。ほら、腕上げて」
僕は言われた通りに腕をあげるけど、痛くて少ししか上がらない。
汗をかいてはいたけど、昨日の蒼一朗とのセックスで、どろどろだった僕の身体やベッドのシーツが綺麗になっていた。
Tシャツを脱いだ時に、僕の胸から腹にかけて、おびただしい数の赤紫に変色した痕が付いてるのに気付いて、とても驚いた。
全部脱がされ、蒼一朗が苦笑しながら全身を濡れタオルで丁寧に拭いていく。新しい下着とTシャツ、スウェットを着させてもらい、ベッドに寝かされた。
「まだ寝てていいよ。何かあったら呼んで」
そう言うと、脱いだ服とタオルを持って、部屋から出て行った。
「燈…燈…」
「んぅ…」
蒼一朗の僕を呼ぶ声で目が覚める。
「寝てたのに、ごめん。でも、昨日の昼から何も食べてないから…。お粥出来てるから少し食べよう」
僕が頷くと、蒼一朗が僕を起こして背中に枕を差し入れる。冷たいお茶が入ったコップを渡されて、一気に飲み干す。冷たい感触が火照った身体に染み渡るようで、気持ち良かった。
食べやすい温度に冷めたお粥は美味しくて、お茶碗一杯分をペロリと食べた。
食べ終わると体温計を渡されて、熱を測る。その間に、額に貼られた冷却シートを貼り替えてくれた。蒼一朗がピピッと鳴った体温計を手に取って確認すると、安心したように微笑んだ。
「良かった、熱が下がってる。でも、今日明日は安静な」
「うん…わかった。蒼、隣にいてくれる?」
「…ああ、いるよ」
ほっとした僕の顔に蒼一朗が手を伸ばしかけた時、リビングからインターフォンの音が響いてきた。
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