夏休みが終わって、僕は久しぶりに学校へ行く事になった。蒼一朗に坂道の手前まで車で送ってもらい、車を降りてからは、僕を待っていた大輝に何故か手を引かれながら、坂道を登って行った。 途中、ちらちらとこちらを見てくる人が数人いた。 大輝が「気にすることないから」と笑って言ったけど、たぶん、この繋がれた手を見てるんだと思う。 僕が困った顔をしてそう言うと、「え、そうかなぁ。ま、こうやってると燈だけじゃなくて、俺にも皆んなの視線が集まっていいだろ？俺の燈だ！って周りに示せてちょうどいいし」 「俺の燈ってなに…」 よくわからない大輝の言葉に、少し不満気な顔をしてみせる。 「俺の大好きな燈ってこと！俺は燈を好きな事を隠したりしたくないんだ。…てか、その顔、可愛い過ぎるんですけど…」 大輝が赤い顔をして、繋いでない方の手で口元を抑えた。 彼が騒がしいから、益々注目されてる気がして、僕は腕を引いて手を離そうとした。でも大輝に「まだ駄目」と更に強く握られて、結局、教室までずっと繋いだままだった…。 大輝に手を繋がれたまま教室に入ると、一斉に皆んながこちらを見た。普段、人の目なんて気にしない僕だけど、流石に居たたまれなくなる…。 一瞬、しんとした後に「久しぶり！」とか「おはよう」とか「なに？おまえら付き合ってんの？」と、あちこちから声をかけられる。 「おはよう！」と大輝が元気に挨拶をして、僕の手を引いて窓側の席へ向かう。僕も「おはよう…」と小さく返しながら、大輝の後に付いて行った。 後ろから二番目の席に僕を座らせて、大輝が僕の後ろの席に座る。 「夏休み前に席替えしたんだ。いいだろ？ここ。燈を好きなだけ見れる」 「……」 後ろを振り向くと、とてもだらしない顔をして、大輝が僕を見ていた。 「蓮本が気持ち悪い…」 「成瀬、気をつけた方がいいぞ〜」 周りからまた声が上がる。いったい、僕と大輝の関係はどう思われてるんだろう。 「うるせーよ。今日から大好きな燈がずっと俺の目の前にいるんだぞ？仕方ないだろ」 教室中に響き渡る大きな声ではっきりと言った…。すごく恥ずかしい事を言ってた気がするんだけど…。 「大輝…？僕のことで皆んなに何か言ったの…？」 身体ごと大輝の方を向いて、少し困ったように首を傾げて尋ねる。 大輝が僕の顔へ手を伸ばしかけて、はっとして慌てて引っ込める。「やばい…」と呟くと、照れたように僕を見る。 「うん、夏休み前に言った。俺は燈が大好きだから、燈の事を悪く言ったり変な目で見る奴は許さねーって。今回の事では、燈は何も悪くないんだからな、って」 そう言うと、いつもの太陽のような笑顔をして見せた。 僕はぽかんと口を開けて、彼の笑顔を見つめる。 前からも思っていたけど、なんて自分の気持ちに正直な人なんだろう……。僕とは全くの対極の人…。 僕がそんな事を思っていると、目の前の大輝がぷるぷると震え出して「はぁーマジでやばい…」と手で顔を覆ってしまった。 「……？」 たまに彼はよくわからない行動をする。隣の席の人に「そっとしておいてやれ…」と言われたから、僕は頷いて前に向き直った。