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第81話 体育祭の練習

二学期になって学校に行き始めてから、時々、他のクラスや他学年の生徒に好奇の目で見られる事があったけど、僕のクラスでは誰一人、変な目で見てくる人はいなかった。 それは、もしかしたら大輝のおかげなのかもしれない。 でも、好奇の目で見られる原因は、やっぱり毎朝大輝が僕の手を引いて登校するからなんじゃないか、と最近は思ってきた。 男子校だから、中には付き合ってる人達もいるかもしれない。だけど、こんなに堂々と手を繋いでるのは、僕達だけだ…。それに、僕と大輝は付き合ってるわけじゃないし…。 ある時、クラスの誰かに僕と大輝は付き合ってるのかと聞かれた。 「まだ俺が猛アピール中。でも絶対恋人になる予定だから、誰も燈に手を出すなよ!」 大輝がそう言って、クラスの皆んなを牽制していた。 病院で告白された時は「ただ俺が好きなだけだから、返事はしてもしなくてもいい」と言っていた。 でも、退院した次の日にプリンを持って家に来た後から「燈と恋人になって一番近くで守りたい」と言ってくるようになった。 あの日、大輝は、確か帰り際に蒼一朗と何か話してたんだ。二人は何を話していたんだろう…? 来月の月初めには体育祭がある。僕は文化祭には出れなかったから、大輝が「体育祭は絶対一緒に参加しような」と何回も言ってきた。 本当は休みたかったけど、もしかしたら、初めて楽しいと思える体育祭になるかもしれない…と、少しだけ期待する気持ちもあった。 僕は運動が得意ではないし、暑いのも苦手だ。だから、応援や見学だけで、競技には出たくない。でも、全く出ないわけにはいかなくて、夏休み前に怪我をした事を配慮してもらい、大輝に「これなら俺も安心して見ていられる」と言われた玉入れにだけ、参加する事になった。 「俺も一緒に出て守ってやるから」 そう大輝に言われたけど、玉入れってそんなに危険な競技だったっけ…。 大輝はバスケをやってただけあって、運動は得意みたいで、リレーや障害物競争、騎馬戦にも出るみたいだった。 連日、体育祭の練習が続いた。僕は玉入れだけだから、そんなに疲れるわけじゃない。だけど、暑い中で他の競技の見学をしたりして、ここ何日かは、少し熱中症気味になっていた。 僕は家に帰ると、先にシャワーを浴びて汗を落とし、熱のこもった身体を冷ました。ズキズキと頭が痛むから、少しだけご飯を食べると薬を飲んで、蒼一朗に声をかけて早々に寝た。 練習が始まってから、少し疲れてるからか悪夢を見ることもなく、蒼一朗に触れられていない。 そのはずなんだけど、朝起きると、唇が腫れぼったく熱を持ってじんじんと痺れている。 僕は指先でそっと唇に触れ、小さく「蒼…?」と呟く。 蒼一朗が、僕に触れてるの…? 退院したあの日、蒼一朗はいっぱいキスをくれて、自分から僕を抱いた。今までで一番、僕は激しく抱かれたんだ。 でもあれ以来、悪夢を見た後のキスはしてくれるけど、僕を抱くことはない。あの日だけ…なんで…? あの日、蒼一朗に何かあったの…? そして、最近は悪夢も見ていないから、震えて怯える事もない……。なのに、蒼一朗は僕が眠ってる間に触れてるの?どうして……? 聞いてみたいけど、蒼一朗があまりにも普段と変わらず挨拶してくるから、僕も小さく「おはよう…」と挨拶を返して、痺れる唇にそっと指で触れる。 それを見た蒼一朗が、「口、どうかした?」と目を細めて、僕の唇を親指でなぞった。 「ん…なんか腫れてる気がする…」 「そう?大丈夫だよ…」 親指できゅっと僕の唇を押すと、顔を洗ってくるように促された。僕は頷いて、洗面所へ向かう。リビングを出る時に蒼一朗を振り返ると、彼が、僕の唇に触れていた自分の親指を、じっと見つめていた。

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