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第82話 体育祭

体育祭の日は、とてもいい天気になって、もう夏も終わりなのにすごく暑かった。 僕は、いつの間にかクラスの保健委員になっていて、怪我をした人の手当てをする為に、救護テントで待機するように大輝に言われた。 「ここなら常に日陰だからな」 僕をテントの中の椅子に座らせながら、大輝が言ったんだけど、もしかして、僕をここに座らせる為に、大輝が僕を保健委員に推したのかもしれない。 彼は、本当にどこまでも僕に甘くて優しい。 大輝がテントから出て行こうとして、「大事なことを忘れてた」と僕の傍に戻ってきた。 「燈、ずいぶん前に、俺が秋に両親が旅行に行くから遊びに来て、って言ったの、覚えてる?それが明日なんだけどさ…。明日、俺ん家に泊まりに来ない?」 大輝が、しゃがんで僕の両手を握り、不安そうな顔で見上げてくる。 また、そんな目をして…と可笑しくなり、僕はくすりと笑った。 「いいよ…。大輝の部屋も見てみたいし…」 「ほんとにっ?やったっ!よしっ、今日はいつもの倍頑張るから、燈、見ててくれよなっ」 「うん。気をつけてね」 大輝が、僕の手をぎゅっと握って立ち上がると、名残惜しそうに離す。そして大きく手を振りながら、入場口へと走って行った。 友達の家に泊まるのなんて、初めての事だ。それに、蒼一朗と暮らし始めてから、彼と離れるのも初めてなんだ。 僕は少しのワクワクと、不安が入り交じった気持ちで、競技に出る為に入場して来た大輝を見つめた。

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