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第83話 体育祭

体育祭は、一年から三年までのクラス毎で、縦割りの組に分かれて競い合う。僕のクラスが入ってる組は、大輝の大活躍のおかげで途中まで一位だったけど、最後の組対抗リレーで転んでしまった人がいて、僅差で二位に終わった。 僕が出た玉入れでは、大輝が元バスケ部だけあって、次々と玉を籠に入れていった。僕は投げても入らないから、ずっと落ちてる玉を拾って大輝に渡していた。 中々のいい連携プレーだったと思う。 応援も、最初は恥ずかしくて声も出せなかった。でも最後のリレーでは、僕はテントから出てクラスの皆んなと一緒に、大きな声で大輝の名前を叫んでいた。 走りながら僕の声に気付いた大輝が親指を立てて笑うと、ものすごい速さで走り出し、あっという間に前の人を抜かして先頭に立ったんだ。 …その後で転んじゃった人がいたんだけど…。 リレーが終わって戻ってきた大輝が、 「燈にかっこいいとこ、見せたかった」と言って、笑っていた。 こんなに楽しい体育祭は、初めてだった。 僕の、最初で最後の、楽しい体育祭だったーー。 閉会式が終わって、片付けをする。全部が終わって帰る頃には、もうくたくたに疲れていた。 大輝と並んで、明日の事を話しながら帰った。大輝の方が絶対疲れてるのに、僕が降りる駅で一旦降りて、マンションまで送ってくれた。 「俺が送りたかったからいいんだよ。」 僕がお礼を言うと、僕の頭をポンと軽く撫でて、頰にキスをした。 僕は、驚いて大輝を見た。 「お礼を言ってもキスするって言っただろ?じゃあ、明日な!」 大輝は少し照れたように笑って、駅の方へ走って行った。 家に帰ると、すぐに風呂を沸かした。着替えを取って来て、洗面所に入り服を脱ぐ。脱いだ服と体操服を洗濯機に入れ、風呂場に入ってシャワーで身体と頭を丁寧に洗うと、お湯を張った浴槽に浸かった。夏の暑い間はシャワーばかりだったけど、やっぱりお湯に浸かると、疲れが取れるようで気持ちがいい。 僕がゆっくり風呂に入ってる間に、蒼一朗が帰って来たみたいで、素早くご飯を作ってくれていた。 お風呂から出た僕の髪の毛を蒼一朗が乾かしてから、二人で向かい合って食べ始めた。 食べ始めてすぐに、今日の体育祭はどうだったか聞かれて、結構、楽しかったと話した。大輝の活躍振りを話すと、「彼は運動神経がよさそうだからね…。燈が楽しかったなら良かった」と言って、蒼一朗は微笑んだ。 「それでね…」 僕は話を切り出す。 「明日の土曜日、大輝の家に泊まりに行ってもいい?大輝の両親が旅行に行って、誰もいないんだって。…駄目?」 僕は、不安げに蒼一朗の目を見つめた。 蒼一朗は、少しの間、険しい顔をして何か考えているようだった。そして、目を閉じて長く息を吐き出すと、ゆっくりと目を開けて僕を見た。 「いいよ…。行ってこい。誰かの家に泊まるのなんて、初めてだもんな」 「うん…」 「楽しんでおいで…」 蒼一朗が、立ち上がって僕の隣に立つ。そして僕の頭を自分の胸に抱き寄せて、髪の毛にキスを落とした。 いつの間にか食べ終わっていた蒼一朗は、 「風呂に入ってくるから、食器を食洗機に入れておいてくれるか?」と僕に頼むと、頭を一つ撫でて、リビングを出て行った。 蒼……? ほんの少し、蒼一朗の様子に違和感を感じつつ、僕も急いで食べ終わると、食器の汚れを拭いてから、皿を食洗機に並べていった。

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