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第84話 外泊する日の朝

翌朝、目覚ましが鳴る前に目が覚めた。鳥の鳴き声を聞きながら、大きく伸びをする。欠伸が出そうになり、手を口に当てると、また唇が熱を持って腫れてるように感じた。そっと人差し指でなぞると、じんじんと小さく痺れている。 また……。 僕は唇を指先でそっと押さえて、一つ深呼吸をする。顔を上げてベッドから降りると、クローゼットに行き服を取り出して着替えた。 蒼一朗は、今日は僕もいないし休日出勤するらしい。リビングに行くと、すでにスーツを着て椅子に座り、コーヒーを飲んでいた。 「おはよう、燈。待ち合わせは昼からだろ?早いな」 蒼一朗が僕を見て目を細める。 「おはよう…。だって蒼、仕事に行くでしょ?ちゃんと見送りたい。それに、今日の夜は僕がいないし、明日まで会えないから……」 「そうか……。燈もご飯、食べるか?」 「もう少ししたら食べる。…明日、僕が帰って来たら家にいる?」 「朝からずっといるよ。燈が帰って来るのを待ってる」 「そっか…うん。早く帰って来るね…」 蒼一朗が手招きをして、僕を呼ぶ。僕が隣に立つと腰を引き寄せて、僕の胸に顔をつけた。 「燈、せっかく友達の家に行くんだから、俺の事は気にせず、ゆっくりしてこい。ちゃんと、俺は待ってるから」 そう言ってくれる蒼一朗に「うん…」と答える。 僕は、彼の頭にゆっくりと頰を寄せると、目を閉じて、しばらくそのままでいた。

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