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第85話 外泊

正午に大輝の家の最寄り駅で待ち合わせをしていた。15分前には着いて改札に向かうと、すでに大輝が来ていた。僕が改札を抜けると駆け寄って来て、鞄を持ってくれる。 大輝は、シンプルなグレーの七分袖のTシャツにジーンズなんだけど、彼は身長が高くてスタイルがいいからよく似合っていた。 僕は、白地に青の長袖ボーダーTシャツに紺色のクロップドパンツといつものスニーカーだ。 蒼一朗や大輝みたいに、シンプルでかっこいい服を着たいけど、身長も高くないし顔も女っぽいから、全然似合わない。 蒼一朗は「燈はそれでいいんだよ」と笑って、いつも僕の服を一緒に選んでくれるけど。 大輝が、僕の方を見て顔を緩ませた。 「そういう恰好もいいね。可愛い!」 「…ありがとう」 可愛いと言われて喜んでいいのか複雑だけど、素直にお礼を言った。 「大輝もかっこいいよ…」 僕が、下から大輝の顔を見上げて言うと、みるみる顔を赤く染めて、目を逸らせながら「ありがとう…」と小さな声で言った。 「ふふ…」 やっぱり、大輝の表情はころころと変わって、見ていて飽きない。僕が笑うのを見て、大輝が今度は不思議そうな顔をしていた。 僕と大輝は、駅の近くのカフェで、軽くサンドウィッチを食べた。それから服屋を覗いたり、本屋で少し立ち読みをしたりしてから、コンビニでお菓子とジュースを買って大輝の家に向かった。 大輝の家は、広い庭のある、4LDKの綺麗な家だった。 リビングに通されて、ソファーに座るように言われる。ソファーの前のテーブルに、コンビニで買ったお菓子とジュースを並べて、大輝が僕の隣に座った。 「何する?ゲームもあるし、映画のDVDもあるけど…。その前に、燈」 「…なに?」 大輝に名前を呼ばれて振り向くと、僕の顔を両手で固定して、ちゅっと軽く口付けた。 「さっき駅でありがとうって言ったから。もーずっとキスしたくて我慢してた…」 もう一度、そっと唇が合わさる。触れた所が小さく震えて、鼻から「ん…」と声が漏れた。 ゆっくりと唇が離れて、大輝が困った顔をして僕を見る。 「燈…いちいち可愛い…。ちょっと落ち着く為にDVD見ようか」 大輝が深呼吸しながら、DVDをセットする。 花火の日に大輝が言ってた「ごめんとありがとうを言ったらキスをする」っていうのは、いつまで有効なんだろう。 そわそわと落ち着きのない大輝の隣で、ぼんやりとそんな事を考えながら、テレビの画面に目をやった。 最初の映画を見終わると、大輝が続きがあると言うからそれも見た。終わった頃には、外が少し暗くなっていた。 「そろそろ晩飯作るか。オムライスにしようと思ってるんだけど…いい?」 「うん、いいよ。大輝、作れるの?」 「俺ん家、両親が共働きでさ、今は家を出てる兄ちゃんがいるんだけど、俺をこき使う奴でよく作らされてたんだ。だから、中々イケると思うよ」 大輝はそう言ってキッチンに行くと、冷蔵庫からテキパキと材料を取り出して準備していく。 僕は何もしないで待ってるのも暇なので、大輝に何か手伝う事はないか聞いてみた。 最初は「お客さんなんだからいいよ」と言ってたけど、急に食器棚の引き出しから何かを引っ張り出してきて、「はい、じゃあこれ着けて」と渡してきた。広げてみると……裾にフリルの付いたエプロンだった。 「なにこれ…」 「母さんのエプロン。うちの母さん、可愛い物が好きでさー。それ、燈が着けると絶対似合うと思う。ほら、服が汚れると駄目だから、それ着けて手伝って」 しばらくエプロンを持ったまま固まっていたけど、大輝にはいつも助けられてるし、これぐらいで喜んでくれるならーーと、エプロンを着けた。 エプロンを着けた僕を見た大輝は、テーブルに置いていた自分のスマホを手に取ると、何枚も写真を撮り出した。僕が止めに入った時には、充分満足する写真が撮れていたようで、笑顔で画面を眺めていた。 「もうっ、恥ずかしいから消してよ」 「絶対消さない!」 二人で大輝のスマホの取り合いをして、疲れたねと笑い合いながら、オムライスを作った。 テーブルに並んで座って食べたオムライスは、大輝が自慢してただけあって、とても美味しかった。

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