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第86話 外泊
食器の後片付けをしている間に、お風呂を沸かし、大輝に布団の準備をしてくるから先に入るように言われて、風呂場へ行った。
お風呂の後、ついでに歯も磨いてリビングに戻ると、大輝が入れ替わりに出て行く。
冷えたペットボトルの水を僕に渡して、廊下を歩きながら振り返って言う。
「先に部屋に行ってて。階段を上がってすぐ左のとこ。燈はベッドだからね。床の布団にいたら襲うよ」
「それと部屋にある本、読んでていいから」と洗面所の中から声が聞こえた。
ずいぶん急いでたな…早く入りたかったのかな。
何をそんなに慌ててるのかと思いながら、僕は二階に上がった。
大輝の部屋はあちこちに物が置かれていたけど、綺麗に掃除がされていて、なんだか落ち着く。ベッドの隣の床に布団が敷かれてあって、僕がこっちでいいのにと思ったけど、さっきの大輝の言葉を思い出して、ベッドに腰掛けた。
本を読んでていいと言ってたから、本棚を見てみる。並んでる本は漫画ばっかりだった。こんなに漫画を読んでいて、よくあの学校に受かったな、頭いいんだな、と感心しながら本を眺めていた。
しばらくして、階段を昇ってくる足音がしてドアが開いた。
上半身は裸でスウェットだけ穿いて、髪の毛をタオルで拭きながら大輝が入って来た。
「早かったね。寒くないの?」
「燈が入った風呂だと思ったら、めちゃくちゃ暑くなった…」
「もう…またそんな事言って…」
僕の隣に腰掛けて、ペットボトルからごくごくと水を飲む大輝を睨みながら、僕も水を飲んだ。
大輝に目をやると、蒼一朗よりも腹筋が割れている。僕はすごく気になって「触っていい?」と腹筋を指差して聞いてみた。
「ん?いいよ」
笑って両手を広げて見せてくれたから、僕はそっと手を伸ばして触れてみる。ぐっと押すととても固くて、思わず、自分の着ている長袖Tシャツの裾をペロリと捲って、筋肉のない、薄い腹を見た。自分の腹と大輝の腹を交互に触ってみる。
「すごいね、大輝。羨ましい…。僕なんて何もない…」
大輝が、僕に恐る恐る手を伸ばして、僕の腹をそっと撫でた。
「いや…白くて、すべすべして、すごく綺麗だ…」
数回撫でてから、今度は僕の首筋をそっと覗き込んできて、はあーと安心したように息を吐いた。
「どうしたの?」
僕の問いかけに「いや…」と少し困った顔をして、しばらく迷ってから、意を決したように話し出した。
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