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第一章(⑥)

「ひと月前に来たササキを除けば、『U機関』のメンバーは元々、ダニエル・クリアウォーター少佐も含めて、全員が参謀第二部(G2)傘下の部門である対敵諜報部隊(CIC)で働いていた」  そのようにアイダは説明した。  アメリカ陸軍の対敵諜報部隊は、敵方の謀略および破壊活動の有無を監視する部門である。連合国軍――実質はアメリカ軍――の占領下にある日本では、東京に本部を置きつつ、各地にその支部が設けられていた。 「対敵諜報部隊(CIC)で、俺たちはもっぱら旧日本軍人が隠匿した物資の捜索に当たっていた。武器や弾薬、医薬品、衣料品、食糧、貴金属なんかをね。日本軍はそういうものを国内外に貯蔵していたが、敗戦時の混乱で、かなりの部分が行方不明になってしまったんだ」  一九四五年八月十五日。玉音放送によって、日本人は自国の敗戦を知った。戦争に敗れたことに無念の涙を流す者。もう空襲におびえなくて済む、自分は生き残ったと喜ぶ者。反応は実に多種多様であった。  そんな彼らをしり目に、兵隊の中には故郷に戻る手土産にと、軍需物資を持ち逃げする輩が後を絶たなかった。あるいは「敵に奪われるくらいなら」と、自分が所属する部隊の戦車や機関銃、ライフル銃を山中の洞窟に隠したり、湖に沈めたという。毛布が数百枚なくなったのなら、まあ放っておいても危険はない。しかし、ライフル銃が数百丁、行方不明となれば、これは治安維持のために追跡して接収しなければならなかった。 「クリアウォーター少佐は、隠されたものを探す『猟犬』として、非常に優秀だった。全国の対敵諜報部隊の支部だけじゃなく、日本警察なんかから集めた日本語の情報も、俺たち日系二世に翻訳させて活用した。結果として、隠されていたものを次々と発見できた」 「有能なお人なんですね」  カトウは少し感心した。奇矯な変装で人を煙に巻くだけが、能ではないらしい。アイダはそれを聞いてうなずいたが、表情から、手放しで賞賛しているわけでもないようだ。 「確かに、あの人は有能だ――でもその分、他人の嫉妬をかなり買っていた」  ちらりと視線をニイガタとササキに向ける。二人が互いの話に夢中なのを確かめた上で、アイダは口を開いた。 「半年前に、ちょっとしたいざこざが原因で、参謀第二部の要員から少佐は総攻撃をくらった。それから一ヶ月後だ。参謀第二部のW将軍は、クリアウォーター少佐と部下たちの何人かを対敵諜報部隊(CIC)から独立させて、新しい部署を設立させた。その部署こそ、『U機関』というわけさ」 「それは、態のいい左遷では?」 「まあ、そんなところだ」  そう言って、アイダは例の皮肉ぽい笑みを口元にきざんだ。

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