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第二章(⑪)

 行きと同じく、帰りも運転役はクリアウォーターが務めた。  助手席のカトウは過ぎゆく景色を眺めていたが、その目は知らず知らずの内にフロントガラスに掛けられたガーランド銃に向かっている。 ――君が私を守ってくれ。  カトウは内心、ため息をついた。おそらくクリアウォーターはカトウの前歴を知った上で、そう言ったのだろう。まったく。買いかぶりもいいところだ。ジョージ・アキラ・カトウという名のチビの男は、悪運に恵まれただけの、ただの死にぞこないに過ぎないのに。  それでも、与えられた仕事には違いない。  あのジョー・S・ギル大尉がわざわざ手を尽くして、自滅自壊していく生活からカトウを引きずりだしてくれたのだ。途中経過が少々、暴力過多だったとしても。ギルが助けてくれたことはまぎれもない事実である。ならばせめて誠意を尽くして、それに報いるべきだ。カトウにできそうな恩返しは、それくらいしかないのだから。  仕方がない。帰ったら、アイダ准尉あたりに射撃訓練のできる場所を聞いておこう。 「……は、あるかい? カトウ軍曹」  考え事をしていたカトウは、あやうくクリアウォーターの声を聞き逃しそうになった。 「えっ…すみません。もう一度、お願いします」 「ああ、いや。今晩、予定はあるかい、と聞いたんだけど」 「いいえ、何も。仕事ですか?」 「いや。もし君の都合がつけば、よかったら二人きりで食事でも、と思ってね」  その言葉がカトウの頭の中にしみ込み、反応を起こすまで、たっぷり十秒必要だった。 「…………あの。まさか、そんなことはないと思いますが。ひょっとして、口説いてます?」 「そうだよ」  クリアウォーターが微笑む。 「理解してくれて、うれしいね」 「……いえいえ。ご冗談でしょう?」  カトウの不用意な一言に、クリアウォーターは気分を害したようだった。赤毛の少佐はむっとした顔でハンドルを切ると、ちょうど人のいない道路の路肩にジープを停車させた。 「冗談なんかじゃないよ」  とまどうカトウに、クリアウォーターは顔を近づけた。 「私の性癖は、サンダースから説明があったろう?」 「あ、ありましたけど…」 「そして。君も私と、同じ性癖なんだろう?」  カトウは絶句した。 ――いったい、いつ見破られた!?  身体中の血が逆流する思いがした。それに拍車をかけるように、クリアウォーターがじっとこちらを見ている。手を伸ばせば届く至近距離で。  ヘビににらまれたカエル。あるいはライオンを前にした山羊か。カトウは顔が火照って、頭がくらくらしてきた。  気まずい数秒のあと、不意にクリアウォーターが笑みをこぼした。 「君は、私のうそを見破ったが……。君自身、うそをつくのは苦手なようだね」 「は、はあ!?」 「顔が真っ赤だよ」  カスタマイズで取り付けられた助手席側のサイドミラーを、カトウはのぞきこんだ。クリアウォーターの言う通り、両頬が熟れすぎたトマトみたいになっていた。  カトウは内心でうめいた。雪国育ちで元々、色は白い方だ。収容所を出て陸軍に入ったあと、少しは日に焼けていたが、退役してから室内で過ごす時間が増えたため、元々の地肌に戻ってしまったのだ。ひ弱に見えるその肌が、昔からカトウは嫌でたまらなかった。そして、何かのひょうしにすぐ赤味を帯びる頬も。 「恥じているのかい?」  クリアウォーターが何気ない口調を装って問いかける。 「男を好きになるように、生まれついたことが」

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