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第五章(⑪)

 その時だった。前方で、ガアン、ガアンと聞き覚えのある銃声が(とどろ)いた。  カトウは藪の中で目をみはった。正体不明の敵が持つ銃の発射音ではない。 ーーあれは……四十五口径の拳銃!? 「…あっちだ!」  土手の上で、鋭い声が響く。複数の人間が、銃声のした方向に駆けていく。  ーーカトウは日頃使っていない脳みそを、フル回転させた。  そして奇跡的に、最善に近い方法を思いついた。  土手の上から最後の一人がいなくなるのと同時に、カトウは藪から抜け出した。できる限りの速度で、土手をよじのぼる。登りきる寸前でカトウは止まり、素早く状況を確認した。左手に、先ほどカトウが撃ち殺した男が倒れている。そして右手には、背中を向けて走り去っていく襲撃者たちが見えた。  繰り返すが、トミー・ガンはガーランド銃に比べると、威力も射程距離も劣る。ある程度、近づかなければ、確実な致命傷は与えられない。カトウはそのことを経験から熟知していた。だから、撃ちたい衝動を抑えて、最大速度で駆けることができた。  男たちは前方に気を取られて、背後から忍び寄る死神に気づかない。  カトウの心のつめたく硬い部分が、冷徹に人数を数える。敵は七人。そして兵士としての目が、これ以上ない冷静さで距離を測った。五十メートル、四十メートル、三十メートルーー。  十分にーーそれから確実に、殺せる距離に来た。  その瞬間、カトウは襲撃者たちの無防備な背中を狙って、引き金を引いた。  それは、理想的な不意討ちだった。  背中から撃たれた二人の男が、糸の切れた操り人形のように倒れる。他の男たちがぎょっと振り返った時、すでに道の上にカトウはいない。撃った同時に土手に転がり、相手の視界の外へと消えたからだ。  斜面に伏せた状態で、カトウは振り返った一人の顔の真ん中を撃ち抜いた。  残り四人。しかし襲撃者たちは、カトウが続けて引き金を引く寸前で、クモの子を散らすように道の上から飛びのいた。三人は反対側の土手へ。  そして、一人がカトウの隠れている側ーーしかも、ほんの目と鼻の先に転がり込んできた。  弱弱しい月光が、小銃を抱えたその男の顔を青白く浮かび上がらせた。  年は二十半ばくらいか。血色の悪い顔の中で、黒い眼だけが異様にぎらついている。それは興奮のせいか、それとも恐怖のせいかーー飛び込んだ草むらから顔をのぞかせた時、男の表情がこれ以上ないくらいに引きつった。  トミー・ガンを手にしたカトウの存在に気づいたのだ。  相手の顔に浮かんだまぎれもない恐怖に、カトウの動作が半瞬だけ遅れる。  だが、それだけだった。  カトウは引き金を引いた。   タッタッという音。脇にくる反動。硝煙のにおいーー刹那の時間が引き伸ばされて、映画のスローモーションのように身体に伝わる。  至近から飛んできた生温かい血が、カトウの顔と肩に、鉄の匂いのする暗赤色の花を咲かせた。

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