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第六章(④)
「ーー最初に、はっきりさせておく」
友好的態度をあくまで崩さぬクリアウォーターに、ソコワスキーは冷たく告げた。
「今朝。参謀第二部 のW将軍が、この事件の捜査責任者にこの俺を任命した」
「申し分のない人選だね」
「……そう思うなら。俺が何か聞くまで、その口を閉ざしていろ」
青灰色の眼で、ソコワスキーはクリアウォーターをにらんだ。
「貴官らは、事件の被害者にすぎん。そのことを、わきまえるんだな」
言い捨てると、ソコワスキーはさっさとクリアウォーターに背中を向け、まもなく開始される現場検証の指示のために、部下たちの方へ歩いて行った。
「ーーソコワスキー少佐のあの態度は、少々、大人げないですね」
戻って来たクリアウォーターに、サンダースが憤慨した口ぶりでつぶやいた。
「それだけ、我々が軽んじられているということさ」
面と向かって悪罵 されたクリアウォーターの方が、むしろ冷静だった。
「W将軍の肝いりで結成されたとはいえ、対敵諜報部隊の要員にとって、U機関 は、その職務さえ定かでない新設部門に過ぎない。対等な協力など、最初からありえないさ。まして、私は昔、彼 に失礼なことを言って怒らしてしまったからね……そのことは、割り引くべきだよ」
「だとしても。少しくらい、怒ってもいいところでしょう。あなたと彼は、階級の上では対等なのだから」
サンダースの言葉に、クリアウォーターは軽い笑みで応じた。
「味方同士でいがみあっていても、いいことは何もない。どうしても譲れない場合でなければ、いちいち怒る必要はないよ」
ーーーーー
その一時間後。ほぼ予定時刻通りにW将軍が、軍用車ではなくセダンに乗って到着した。
車から降りる将軍に敬礼したソコワスキーは、すぐにジープの見下ろせる土手の上に彼を案内し、現場検証の中途報告を始めた。
「ーー現時点で、爆発したのは、手製の手投げ弾であると推測されています」
一行の一番後ろで、クリアウォーターはソコワスキーの得々とした説明を聞いた。
「ジープはそこに向かって、時速五十キロ程度で走行し……」
いや、時速四十キロだとクリアウォーターは心の中で訂正する。街灯もない舗装されていない夜道を走る時、用心深いニッカーはそれくらいの速度しか出さない。
時速四十キロは、秒速約十一メートル。ジープが道路から脱輪し、田んぼに向かって滑落し出した場所と、爆弾が落ちて爆発した地点までの距離を計測したら十五メートルほどだった。
もし、襲撃者たちが、あと二、三秒ほど我慢してから爆弾を投げつけていたらーークリアウォーターは今こうして、この場所に立っていなかったはずだ。
ソコワスキーの熱のこもった説明に耳を傾けていたW将軍が、ここで初めて口を挟んだ。
「ーーもっとも肝要な点を、質問させてくれ」
鷹 のように鋭い眼つきで、将軍は一同を眺めわたした。
「愚かしいテロリストどもが狙ったのは、GHQの不特定多数の軍人か。それとも、ダニエル・クリアウォーター少佐個人か?」
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