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第六章(⑤)
ーーさて、ここが正念場だ。
クリアウォーターは背筋を伸ばし、まごつくソコワスキーのかわりに答えた。
「私個人を狙ったものです、閣下」
「そう言い切る根拠は?」
「私と部下を襲った者たちは、日本語でこう叫びました。『赤毛の男だけは、絶対に仕留めろ』と。一緒にいた日本語の分かる日系二世 の部下も、同じ言葉を聞いています」
クリアウォーターは自分の髪を指でつまんだ。
「ご覧のとおり、私の髪の色は格好の目印です。たとえ夜であっても、見間違えはしないでしょう」
「狙われる心当たりは……」
口にしてから、将軍は自分の質問のばからしさに気づいたようだった。
「すまん。山のようにあるな。旧日本の軍人から、君はたくさんの恨みを買っているはずだ。私が命じた仕事のせいで」
クリアウォーターは、内心で苦笑する。
しかし将軍の放った次の質問で、笑ってばかりもいられなくなった。
「君は鎌倉への出張のために、この道を通ったそうだな。君の乗ったジープがここを通ることを知る可能性のある人間は?」
ーーまずい。
クリアウォーターは焦った。
ーーこの質問をしたということは。十中八九、W将軍はあのことに気づいている。
今、この場で、クリアウォーターはうかつな答えを返すわけにはいかなかった。
助け舟は、意外な方向から来た。
「それは、これから調査します」
ソコワスキーがすかさず、口をはさんだのである。
将軍は彼をじろりとにらんだが、口に出しては「…そうか」と言っただけだった。
W将軍は再びソコワスキーに、現時点での捜査の進捗状況を報告させた。
その様子を、クリアウォーターは黙って聞いていた。
幸か不幸か、その後も将軍から、赤毛の少佐に向けて質問が飛んでくることはなかった。
昼近く、事件の概要をおおよそつかんだW将軍は、昼食を取るために一時解散を命じた。将軍がセダンへ乗り込むのを見届けたクリアウォーターも、サンダースとカトウの待つジープへ足を向ける。しかしーー。
「ダニエル・クリアウォーター少佐」
呼び止められたクリアウォーターが顔を向けると、そこにW将軍の副官が立っていた。
「将軍閣下が、昼食の席にあなたも同席するようにと、ご命令です」
クリアウォーターは、来るべきものが来たことを悟った。
「――承知しました」
必要なことをサンダースに言 づけると、クリアウォーターはそのままW将軍のセダンに同乗し、現場を後にした。
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