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第六章(⑦)

僭越(せんえつ)ながら、閣下。これは単に、私の生命と名誉の問題だけではありません」  クリアウォーターは将軍の目を、しっかりと見すえた。 「私と同じように。部下たちの生命と名誉が、危険にさらされています。すでにサムエル・ニッカー軍曹が、襲撃者たちの凶弾によって命を落としました。ジョン・ヤコブソン軍曹は負傷して、今も病院にいます。ジョージ・アキラ・カトウ軍曹も……」  昨晩のカトウの様々な顔が、脳裏をかすめる。  軍服をニッカーの血で染めたまま、ジープを遮へいにトミー・ガンで敵を狙う横顔。  クリアウォーターの行動をとがめ、猛然と食ってかかってきた時の(はがね)のごとき眼差し。  宿舎の部屋の前でびしょ濡れでうずくまり、クリアウォーターを見上げた時の泣き顔。  そしてーーひとつのベッドで情を交わした間に見せた、実に多彩な表情。  どれも、クリアウォーターが初めて見るものだった。 ーー会いたい。    今すぐカトウに会って、その存在を、無事を、抱きしめて確かめたかった。   「……ジョージ・アキラ・カトウ軍曹も、危うく生命を失うところでした」  こみ上げてきた強烈な感情を、クリアウォーターは理性でなんとか押さえ込んだ。 「将軍閣下。部下たちの安全を一日も早く確保するために。私は全力を尽くす所存(しょぞん)です」  聞き終えた将軍は、ふっと息をつく。それから、白身魚のきれはしを口に放り込んだ。 「期限は一ヶ月……いや、四週間だ」W将軍は言った。 「その期間内に裏切り者を見つけるか、あるいは七人全員の無実を立証しろ。それを過ぎて成果を上げられなかった場合、君の部下たちの身の潔白の判定は、君以外の人間の手にゆだねられることになる。それで、いいな」 「…イエス・サー」  クリアウォーターは答えた。  W将軍から引き出せる、これが最大限の譲歩だろう。  あとは――自身の知恵と経験を頼りに、調査を進めるしかない。 「――ふむ。魚の方は、まあまあだな」  将軍はナイフとフォークを動かしながら、クリアウォーターに顔を向けた。 「ちっとも、食が進んでいないな。まずは、食べたまえ。腹が空いている状態でまともな(いくさ)ができるとは、君だって思っていないだろう?」  それは、きわめてまっとうな忠告であった。クリアウォーターはうなずき、将軍にならって冷めた料理を食べ始めた。

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