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第七章(⑫)

 クリアウォーターが東京に戻った数時間後ーー深夜に近い時間に、彼の邸をひとりの軍人が訪れた。参謀第二部、W将軍が遣わした副官は、玄関まで降りてきたクリアウォーターに白い封筒を手ずから渡し、その場で開封するよう促した。  クリアウォーターは、黙然と中身を読む。読み終えて、彼は顔を上げた。 「閣下にお伝えください。『お手をわずらわせました。明日から早速、調査に取り掛かります』と」  副官が辞した後、クリアウォーターは手紙を持って、二階の自室に上がった。  そしてベッドに腰掛けると、もう一度、文面を頭から読み直した。 「――D.C.(ダニエル・クリアウォーター)少佐へ。君に依頼された通り、襲撃を受けたジープに装備されていたガーランド銃を回収し、秘密裡に解体して調べさせた。君が予想した通り、撃鉄の部分に小石が挟まっているのが発見された。さてーージープは横転したものの、銃自体はまったく無傷で、土をかぶってさえいなかった。小石がわずかなすき間に、どんぴしゃりで挟まるなど、いかにも不自然である。調査した人間は、誰かが故意にガーランド銃に細工をしたと結論した。私も同意見である。D.C。少佐。君の調査が確かな成果を出すことを、私は切に期待しているーー」  ジープをしまっている倉庫には普段、錠前がかかっている。その鍵は、サンダースのデスクの中で保管されており、引き出しには当然のように普段、鍵がかかっている。ただ一本ある合鍵は、クリアウォーターがベルトにはさんで持ち歩いていた。  もしガーランド銃に細工をした者が外部犯なら、倉庫の鍵を何らかの方法でこじ開けねばならない。どんなに慎重にやっても、探せば痕跡を見つけるのは難しくない。  しかし、もしこれが内部の犯行なら?   U機関(ユニット・ユー)の者なら、来てからまだ日の浅いササキやカトウも含め、全員が倉庫の鍵をサンダースが管理していることを知っている。鍵を借りた時に、こっそり型を取って合鍵を作るのが一番手っ取り早く、スマートな方法だろう。  そして今朝、クリアウォーターは機関に着くなり、真っ先に倉庫の錠を調べた。  予感は的中した。鍵開けに熟達したクリアウォーターの目をもってしても、こじ開けられた痕跡は見つからなかったのだ。 ーー結論:倉庫は正規の鍵か、合鍵によってのみ開けられた。  つまり? ーー倉庫の鍵を開け、ジープに積まれたガーランド銃が不具合を起こすよう細工をした人間は、U機関(ユニット・ユー)内部の人間である。

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