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第九章(④)
――一人の人間を調べるというのは、その人物の人生の一端を知るということだ。
クリアウォーターははからずも、ジョージ・アキラ・カトウという日系二世の幸せとは言いがたい子ども時代を知ることになった。知った今、カトウへの想いは、なおさらつのるばかりだった。
サンダースは上官の横顔をちらりと見て続けた。
「軍の記録によれば、カトウは一九三八年、生地である西海岸のロサンゼルスに戻ったそうです」
「ああ。確かにその通りだ。カトウは母親に連れられて二歳の時に渡日したが、父親の方はずっとロサンゼルスで暮らしていた。その父親が彼を呼び戻したんだ」
父親の名前はタイゾウ・カトウ。一九二〇年に渡米し、一九二二年に日系一世のサワコ・ミヤノと結婚。二年後には息子のジョージ・アキラが生まれた。
そして一九四五年、タイゾウ・カトウはカリフォルニア州にあったマンザナー収容所で、肝硬変のために死亡している。息子のジョージ・アキラ・カトウはその時、まだヨーロッパにいた。父の最後に立ち会うことは、ついにかなわなかったのである。
父親の死をどんな気持ちで受け止めたかは、カトウ本人にしか分からないことだ。
一方、日本に来て以来、カトウが積極的に伯父夫婦と連絡を取ろうとした様子はない。来日してまだ日が浅いとはいえ、生まれ育った富山にも足を伸ばしていない。サンダースの報告を聞く限り、カトウにとって伯父たちはあまりなつかしい相手とは言い難いようだから、それも不思議ではなかった。
樹木がいたる所に残る街路をぐるりと一周した末、クリアウォーターとサンダースは教会に戻ってきた。施錠されていない礼拝堂をのぞきこむと、すでに内部には誰もいない。
「ちょうどいい」と、クリアウォーターはサンダースを招き入れ、並んで木椅子のひとつに腰をおろした。
すでに金銭関係も洗ってみたが、カトウはごくごくまっとうな金の使い方をしている。サンダースが富山に出張していた間に、クリアウォーターの方は東京で調査を行っていたが、金銭方面で多少なりとも気になるのは二人だけだった。
一人目は死亡したサムエル・ニッカー軍曹。酒やたばこ、車に対するほどではないが、時々、彼は賭け事にも愛情をそそいでいたようで、トランプ仲間に合計で二百ドルほどの借金があったのが見つかった。
そしてもう一人はーー。
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