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第十一章(⑥)
ソコワスキーは肩を揺らし、ほんの少しだけクリアウォーターに向ける表情をやわらげた。
「――こいつは貸しだからな」
「分かっている。どんな無体な命令でも、必ずひとつは聞こう」
「ほう」
「たとえば君が靴をなめろと言ったら、喜んでなめてみせよう」
「貴官の変態趣味に、俺をまきこむんじゃねえ!」
たちまちソコワスキーの顔に、いつもの険しさが戻った。
――そして三日後の現在。
苦虫をつぶした顔で、ソコワスキーがクリアウォーターの対面に座っている。当然だろう。「早ければ、三日以内にケリがつく」――大見得きったクリアウォーターの予測は、ものの見事に外れたのだ。
そう、クリアウォーターの予測に反し、今日の正午には入院中のヤコブソンを除くU機関のメンバー全員が出勤してきた。そのヤコブソンにしても、クリアウォーターから若海組襲撃の一報を伝えられたあと、現在に至るまでおかしな動きを見せていない。
ソコワスキーはクリアウォーターと相談の上、動かせるぎりぎりの人員をあてがって、何とか監視を続けていた。U機関で電話番と留守番をしているフェルミのそばには、MPを装った男がついている。横浜の病院にいるヤコブソンも同様だ。現在、応援人員として駆り出されている者の内、通訳を務めるササキとニイガタについては、そばにいる尋問要員が監視を兼ねている。カトウも通訳としてサンダースとペアで尋問に当たっている。サンダースがカトウを見張り、サンダースについては時おりおかしな動きがないか、ソコワスキーの部下が目をくばっていた。そしてアイダについては、クリアウォーターが見張っていた。
夜ともなれば、また別の人員が交代して各人を監視することになる。
それを考えるだけで、ソコワスキーは頭痛がしてきた。
「貴官のところの裏切り者は、樫の幹みたいに図太いようだ。いつ正体が露見してもおかしくないはずなのに、いまだに平然としている」
誰もおかしな素振りを見せないーーその事実をクリアウォーターは何度も頭の中で噛み砕いた。
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