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第十一章(⑪)
それからさらに二日が経過した水曜日、若海義竜の屋敷から押収された生阿片について分析結果がソコワスキーの元に届いた。
すでに若海組の幹部たちに対する二回目の尋問が開始されていたが、クリアウォーターはそれを中断して、ソコワスキーに直接、結果を聞きに行った。
クリアウォーターがやって来て座るなり、ソコワスキーは分析結果の報告書を差し出した。
「生阿片は、岩下拓男 から押収したものと成分が酷似していると分かった」
それ以上に決定的だったのは、包み紙である。岩下の所持していた生阿片と、若海の屋敷から押収された生阿片には、同じ包み紙が使われていた。
「ここから導きだされる結論はーー二人の人間が所持していた生阿片は、出所が同じところだったということだ」
「これで、つながったね。若海の所持していた生阿片は、S通商の増田豊吉 が関東軍から横領した生阿片の一部に違いない」
クリアウォーターは胸ポケットから万年筆を出すと、持っていた手帳の上に書きつけた。
総重量十トンと推測される生阿片 → 岩下拓男:百キロ(押収済み)
→ 増田豊吉:九千九百キロ(所在不明)
※増田は、ヨロギにより殺害される
→ 若海義竜の元に、阿片の一部が流れ込む
ソコワスキーがクリアウォーターの書いたメモをのぞきこむ。
「問題は。若海がどういう経緯で、増田が持っていた阿片を手に入れたかだな」
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ソコワスキーが抱いた疑問は、それからまもなく解決されることになった。
拘束された若海組の幹部の中に、文谷徳治 という男がいた。およそヤクザ者には見えぬ柔和な外貌で、古書店の主人でもやっている方が似つかわしい男だ。事実、文谷は幹部といっても組には滅多に足を運ばず、普段は若海組のシマで日本料理屋を経営していた。若海死去の一報を聞いて、葬儀に参列していたところを拘束された次第であった。
当然のように、若海が占領軍人の暗殺を計画していたことを、露ほども知らなかった。それを聞かされて、文谷は最初、肝をつぶし、その後はただただ嘆息した。
「……あの人 も馬鹿な真似をしたものだ」
文谷は千田や湯浅と違い、占領軍には何の恨みも持っていなかった。おそらく早く解放されたいという思いもあったのだろう。
二回目の尋問が始まると、文谷は意を決して自分から進んで知っていることを話し出した。
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