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第十一章(⑱)
カトウは考えた。確かに亡くなった者を思い出させる品物は、残された者に悲しみを引き起こさせる。特に写真などは――カトウ自身、ハリー・トオル・ミナモリの写った写真を、今も大切に保管している。だが、それは普段、トランクの奥に厳重にしまいこまれたままだ。ミナモリが死んで二年以上経つが、それでも見返すたびに、いまだになつかしさよりも、悲しみと寂しさが込み上げてきてしまうのだ。
それでも写真を捨てようなんて、カトウは一度として思ったことはなかった。
「…こうしたらどうだ?」カトウは言った。
「ニッカーの私物をアメリカの家族のもとに送る時に、絵も一緒に荷物の中に入れて、手紙を同封するんだ。『息子さんに頼まれて描いた絵だ』って。そうすれば、大事にしてもらえると思う」
「あ、それいいね。名案だ」フェルミの声に、元気がもどった。
「ダンに頼んでみるよ」
「ああ」
「ところで、ジョージ・アキラ・カトウ。ダンのこと、結局どうなの?」
油断していたところに奇襲を受け、カトウはうろたえた。
フェルミに問われるまでもなく、そのことについてカトウ自身、百回は自分に問いかけた。
――ジョージ・アキラ・カトウ。お前は結局、あの赤毛の少佐とどうなりたいんだ?
百回とも答えは変わらない。
「分からない」――いや、「分からない」だった。
一昨日、クリアウォーターに抱きしめられた時に、こみあげてきた感情ーー無視したくても無視できなかった。
だがミナモリのことが頭をよぎり、罪悪感でカトウは再び堂々巡りに陥る。
同時に、クリアウォーターが寄せる想いに応えられないことで、余計につらくなった。
――……きっと、出会わなければよかったんだ。
出会わなければ、ジレンマでこんなに苦しむこともなかった。
クリアウォーターに悲しい想いをさせて、苦しめることもなかった。
「――答え、まだ出てないんだね」
フェルミが一つしかない目で、カトウを見つめる。
普段、幼児のようにふるまう男が、この時だけはカトウよりずっと大人びて見えた。
「大丈夫。もうちょっと時間をかけて考えたら、きっとちゃんとした答えが見つかるよ」
きっと、フェルミはなぐさめてくれているのだろう。それから多分、カトウとクリアウォーターの関係がうまくいくことを望んでくれている。
カトウは肩を落とす。
フェルミには悪いが、とてもそんな風にうまくいくなんて思えなかった。
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