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第十二章(④)

 曙ビルチングの自室のベッドの上で、カトウは寝転がって本を読んでいた。早目に寮に戻ったあと仮眠を取り、先ほど遅い夕食を取ったばかりだった。不眠症は断続的に続いていたが、今日はむしろ居心地のよい毛布にくるまったように、眠気がまとわりついている。 ――今夜は、うまい具合に眠れそうだ。  すでにうつらうつらし始めている。少し早いが、電気を消して休もう。眠りの谷に落ちかけたまさにその時、部屋のドアが控えめにノックされた。 「加藤さん。まだ起きてますかね?」  呼びかけてきた声は曙ビルチングの管理人、杉原のものだった。  目を覚ましたカトウは仕方なく、日本語で返事をした。 「何ですか?」 「シミズさんって人からお電話ですよ」 「シミズ?」  カトウは首をかしげた。 ーーシミズ……清水か?    はて。カトウの記憶する限り、その苗字の知り合いはいない。  カトウはドアを開け、杉原老人にたずねた。 「スミスとかじゃないですよね?」 「いいえ。確かに、シミズって言いましたよ。それにちゃんと日本語で『加藤明さんはいますか』って、お尋ねになりまし。ちょっと外国なまりがありましたけど。お知り合いの二世の方じゃないんですかね?」  杉原の言葉を聞き終えて、カトウは顔色を変えた。  脳裏には、すでにひとりの男の姿が浮かんでいた。  階段を下りた先にある共用の電話はやや古い壁掛け式のもので、木製の本体に送話口がくっついていた。その前でカトウは背筋を伸ばすと、いく分緊張ぎみに受話器を取って、送話口に顔を近づけた。 「…もしもし。クリア()ウォーター()少佐ですよね」  受話器の向こうで、聞き覚えのある笑い声が上がった。 「正解。こんばんは、カトウ」  

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