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第十二章(⑪)※性描写あり

「…どうだい?」  クリアウォーターに耳元でささやかれ、カトウは正直に答えた。 「痛くて、きついです」  我ながらロマンチックのカケラもない言葉だと、カトウは言ってから思った。額への口づけが、クリアウォーターの返事だった。  つながったところが、痛くて、きつくて、熱い。  クリアウォーターは気遣ってか、すぐに動かずに口づけを交わし続けた。その息と肌が熱と湿り気を帯びてくるのがカトウには分かった。 「…動いていいですよ」  その言葉に、クリアウォーターがとまどいに近い表情を浮かべる。 「でも、まだきついだろう?」 「いいから」  カトウはクリアウォーターの髪に指をはわせた。赤毛のひと房をつまむ。 「好きなようにしてください」 「…そんなに優しくされると、つけ上がりそうだ」 「今さら、それ言います?」  カトウの言葉に、クリアウォーターが笑った。演技ではなく、本当に可笑しいと思った時の笑顔だ。それを見ながら、カトウは心の中でつぶやく。 ――自分の気持ちは、まだ分からない。 ーーでも、この人(クリアウォーター)の本物の笑顔は好きだ。  クリアウォーターも笑いながら言った。 「――いいね。そんなふうに皮肉を言う方が、ずっと健全だ」  それからカトウの両足を持ち上げると、ゆっくり抽送をはじめた。  自分のものでない異物が出入りする感触は、痛み以上に圧迫感を強く感じさせた。それに加えて徐々に、よく分からない熱っぽい感覚が、真綿を巻くように、じりじりと胸からのどを締めつけてくる。射精寸前の形容しがたい切なさと似ているが、少し違う。だがそれ以上、冷静に分析したり、味わったりする余裕はカトウにはなかった。  情熱に突き動かされるままに、クリアウォーターは動いた。激しく、深く、カトウの中を繰り返し執拗にえぐる。わずかな小休止の間にはカトウの肌に唇を這わせ、汗の珠を舌で転がしたり、発見した弱い部分に愛撫をほどこした。  いつの間にか、カトウは声を抑えることも忘れていた。口からすすり泣くような声が発せられる。そこに時々、クリアウォーターを呼ぶ声が混じった。 「少佐……少…佐……」  クリアウォーターが徐々にのぼりつめるのが、呼吸の荒さで伝わってくる。だが、その前にカトウの方が限界をむかえた。  クリアウォーターがカトウの肩に歯を立て、強く吸った刹那、カトウの頭の思考と感覚が消し飛んだ。この日、二度目の吐精は一度目よりさらに激しく、長く続いた。その間に、クリアウォーターが最後の一突きをくれた。結びついたところに律動が伝わり、クリアウォーターも果てたことが分かった。  ……薄明かりの中、しばらく互いの息づかいだけが聞こえた。と、急に身体を裏返され、カトウは強く抱きすくめられた。歯がぶつかるほどの勢いで、唇を貪られる。ぐったりした身体で、カトウはなされるがままにそれに応じた。  やがて密着させていた肌が、徐々に冷えてきた。そこでようやくクリアウォーターが唇を離した。 「…ジョージ・アキラ」  カトウを見つめる緑の眼が、夜のこずえのように深い色をたたえている。 「返事はいらない。ただ、言わせてくれ――」  両腕でカトウを抱きしめ、クリアウォーターはささやいた。 「君を愛している」  言われた通り、カトウは返事をしなかった。そのかわり、クリアウォーターの胸に顔をうずめ、その背中に両腕を回した。  クリアウォーターの汗と肌のにおいを感じながら、カトウはすぐに眠りに落ちていった。

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