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第十五章(⑥)※性描写あり
ベッドの端に腰かけて待つカトウのもとに、クリアウォーターが探していたものを見つけて戻って来た。それは黒く細長い布――浴衣の帯だった。
「布で目隠しをすればいい。何も見えないんだから、恥ずかしくないだろう」
クリアウォーターにそう提案された時、カトウは「確かに」と一瞬、納得しかけた。
しかし――。
「…目隠しは少佐もなさるんですか?」
「するわけないだろう。君も知っての通り、私は見えるものは全部、見る主義だ」
予想に違わぬ答えだった。
まだ躊躇しているカトウの後ろに、クリアウォーターは素早く回り込んだ。カトウはついに抵抗をあきらめた。なされるがまま、視界をふさがれる。元の帯は薄手だが、短くするために二重にしたせいで、目隠しをされると本当に何も見えなくなった。
「少佐…?」
困惑気味のカトウを前に、クリアウォーターは「これは…」と心の中でつぶやいた。
ただ目元を布で覆っただけなのだが。
とまどい、手探りで相手を求めるカトウの姿は、普段の一本芯の通ったそれと異なり、ひどく頼りなげに見えた。
眺める内に、クリアウォーターの中で意図していなかった情欲が燃え立ってきた。
――何だろうな。この背徳感は……。
「あの、少佐……?」
おずおずと伸ばしてきたカトウの手に、クリアウォーターは指をからませる。そのままの勢いで、ベッドの上に押し倒した。
口づけを交わしながら、クリアウォーターはカトウのシャツと下着を脱がせていく。今までカトウの裸身を目にしたのは薄暗いところが多かった。ゆえに、あまり注意していなかったが、昼の光に照らされた青年の胸や背は、ぬけるような白さだった。おそらく日に――というより人目にさらすことを、極力避けてきたのだろう。
だからこそ、幾重にも折り重なった火傷の跡は、余計に痛々しく映った。
クリアウォーターはその傷跡をなぞるように、唇を這わせた。注意深く、カトウの反応をうかがう。大丈夫。嫌がってはいない。唇と舌を使って刺激を与え、舐め続けていると、カトウの呼吸がだんだん早くなり、湿って熱を帯びてきた。
ゆっくり時間をかけて、クリアウォーターは恋人の細い身体を丹念に愛撫した。幾度かの情事で、カトウがどういう触れられ方に弱いか、だんだん分かって来た。それでも、クリアウォーターは毎回、新しい発見をする。最初の頃はとまどうばかりだったが、今は官能へのスイッチに変わりつつある部位もあった。
カトウの悩ましげな吐息が、抑えきれずに発せられる声が、そして身体の反応のひとつひとつが、クリアウォーターには愛おしくてたまらなかった。
やがて目隠しだけを残して、クリアウォーターはカトウの服をすべて取り去った。カトウの色白の肌はすでにあちこち血の色が透けて、鮮やかな紅色に染まっていた。その姿を堪能しながら、クリアウォーターは自分の服を手早く脱ぎ捨てた。
何もまとわぬ姿になった二人は、互いの背中に腕を回し、足を絡ませ、紙一枚も入らないくらい固く抱き合った。カトウの呼吸が、一時的に穏やかになる。満ち足りた思いが甘い声の形で唇からこぼれ落ち、クリアウォーターの耳を快く打った。しかし、固く張りつめた下半身のものは、これが長くない休息だと、互いをせっついた。
クリアウォーターは身体を起こした。気配と音で、サイドボードから潤滑油を取ろうとしているのだと、カトウにも分かった。
「待って」
カトウは後ろから押しとどめた。
「どうしたんだい?」
クリアウォーターが振り向く。カトウは答えなかった。声に出しては。
そのかわり、カトウはクリアウォーターの身体に触れ、胸元のあたりに口づけた。それからゆっくり、下の方へと舌を這わせ始めた。何をするつもりか、クリアウォーターは気づいた。
「…いいのかい?」
返事はない。ただ、少しだけカトウの頬の赤味が増したように見えた。それだけでクリアウォーターには十分だった。薄いガラスのように、美しくも危ういこの雰囲気を壊したくない。何よりカトウに途中でやめて欲しくなかった。
胸から腹、そして赤い繁みに。カトウは探り当てたクリアウォーターのペニスにおずおず唇を近づけた。触れて、舐めてーーついに迷いを断つように熱っぽい肉の棒を口の中に含んだ。
クリアウォーターは潤んだ目を細めた。愛撫の巧拙など関係ない。というより、もはやよく分からない。
ただ、カトウがその行為をしてくれている。その姿を見るだけでたまらなく興奮してきた。
「ああ……」
低いかすれ声が、クリアウォーターののどの奥から洩れた。急速に、自分の欲望をコントロールできなくなるのが分かる。快楽の波に溺れかける寸前、クリアウォーターはカトウの肩をたたいた。
「そろそろ、十分だ」
だがカトウはやめない。クリアウォーターが何度か合図を送って、ようやく不満げに顔を上げた。
「でも、まだ……」
「口はまた次の機会に」
せっぱつまった欲求が、クリアウォーターを「急げ」とせきたてる。
「ーー今は、ちゃんと君の中でしたい」
そう言うなり、強引にカトウの身体を自分の上に担ぎ上げた。
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