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第十五章(⑦)※性描写あり

 うつぶせになった相手の太もものつけ根に、クリアウォーターは指を這わせた。潤滑油を塗った指の一本目はほとんど抵抗なく、秘所にするりと入った。  口づけながら、クリアウォーターは焦らすように、もう片方の手でカトウのうなじや背中を撫でた。さらに舌で口腔を(ねぶ)ると、カトウは悲鳴に近い嬌声を上げ出した。相手の快楽の高まりが、クリアウォーターをいよいよ大胆にさせた。指を二本に増やして一分もしない内に、さらに一本増やして、カトウの後孔を広げていく。ほぐれたところで、カトウを仰向けにベッドに横たえ、クリアウォーターは急いでコンドームの袋を破いた。  目隠しをされたまま、カトウは呼吸をおさえて待っていた。細い身体をかすかに震わせる姿は、この上なく無防備に見え、クリアウォーターはごくりとのどを鳴らした。  この青年(カトウ)を自分だけのものにしたいという強烈な支配欲と、他者の攻撃すべてから守りたいという義務感にも似た庇護欲が、身体を貫く。今まで関係を持った男の数は、数え切れない。けれども、こんな気持ちになったのは初めてのことだった。    運命の相手――陳腐な言葉が含む真実を、クリアウォーターは今、本当の意味で知った。  クリアウォーターはカトウの両足を抱え上げた。目隠しされた顔に、かすかな緊張とこれからの行為への期待がよぎる。その表情を堪能しつつ、クリアウォーターはゆっくりと身体を重ねた。  強引に奪った最初の夜に比べれば、ずい分柔らかくなった。それでもまだきつい。しかし、そのしめつけがクリアウォーターにはむしろ興奮を高める刺激に感じられた。  つながる部分が徐々に深く沈んでいく。根元まで沈んだところでクリアウォーターは壁に寄りかかり、カトウの身体を抱き上げてひざの上にのせた。  カトウはあえぎながら、クリアウォーターの肩にもたれかかった。悦楽の混じった熱い吐息が耳たぶをかすめた時、クリアウォーターは不意に抗しがたい誘惑にかられた。 ――すべてを見たい。  クリアウォーターの視線が、目隠しの結び目に向かう。これをほどいたら、きっと怒られる。でも怒ったところで、今さらやめると言いだしはしない――狡猾な計算をクリアウォーターは働かせ、ものの数秒で決めた。カトウの肩をそっとつかむ。キスを交わすと思ったのだろう。カトウは相手の動きに合わせて身体を離した。  その瞬間、クリアウォーターはカトウの後頭部に手を回し、目隠しの結び目をほどいた。  ……視界が奪われれば、その分ほかの感覚が明敏になる。カトウは今まさに、そんな状態だった。しかも見えない分だけ、クリアウォーターの行為は予想がつきにくく、思わぬ時に快楽が身体のあちこちで爆ぜた。  クリアウォーターが言ったとおり、見えない分、羞恥心は確かに減った。それと反比例するように、カトウの身体はいつになく興奮をおぼえていた。  そこにクリアウォーターの肉体が、後ろ穴をえぐって入ってきた。 「ああ……」  つながった瞬間は痛みが走る。だがすぐに、摩擦が生む快感と空隙が満たされる充足感が打ち勝った。少しずつ、全身の細胞が歓喜を感じて叫びはじめる。それでも、何かがまだ足りなくて、カトウは恋人の肩にもたれながら自ら腰を揺すってそれを求めた。  その時、クリアウォーターの両手が肩に触れた。深い口づけを期待して、カトウは上半身を起こす。  直後、暗闇だった視界に音もなく光が溢れた。  とっさに虹彩の調整が追いつかず、カトウは目がくらんだ。それでもまばたきを繰り返す内に、黒い両眼が像を結んだ。  至近距離で、クリアウォーターがカトウを見つめていた。  カトウもまた、相手を見つめた。  額に汗の玉が浮いている。陽の光を浴びた豊かな赤毛が、まるで夏の夕陽のような輝きを帯びている。潤んだ緑の瞳はカトウが知るどんな宝石にも勝るほどで、息が止まるくらいに美しかった。 「……きれい」  カトウはつぶやいた。胸に溢れてくる思いで知る。もはや自分の気持ちを偽って、抑えることはできなかった。  きっと、初めて会った時から魅かれていた。  いつの間にか慕って、そしてーー好きになっていた。  切れ長の目を細め、カトウは自分からキスをした。  クリアウォーターがカトウの背中に腕を回し、強く抱きしめてくる。やがて下からの突き上げが始まり、カトウも相手に合わせて動き出した。欲情と愛情の混じった抽送は容赦がないくらい力強く、カトウは振り落されないよう、腰を振りながら必死で相手にしがみついた。 「少佐……」  あえぐカトウの耳に、クリアウォーターがささやく声がこだまする。 「名前で呼んでくれ、ジョージ・アキラ……」 「………ダニエル」  カトウはすすり泣くような声で応えた。 「ダニエル、お願い……」  何を願っているのか、自分でもよく分からない。それでも、クリアウォーターは全部かなえてくれた。腰を使い、両腕を使い、舌を使って、カトウの敏感で脆いところを一気に攻めた。  快楽の波にさらわれ、カトウは何度も叫んだ。やがて意識も消え去る。クリアウォーターの胸に顔をうずめ、最後の叫びを上げながら先に果てた。自身の射精の律動に、クリアウォーターのうめき声が重なる。窄まる後孔がもうひとつの律動を感じ、カトウは恋人が絶頂に達したことを知った。  同じ至福の時間を分かち合った。カトウはその事実を受け止め、涙をこぼして笑った。  波が引くようにそれが静まったあとも、しばらく抱き合ったままカトウとクリアウォーターは互いの呼吸に耳を傾けていた。

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