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第3話
構内の中でも奥のほうにある、ひっそりとした研究室のドアを開ける。
「長潟教授ー!おーい」
入り口から声をかけてみるが、返事がない。
この時間に教授がいないはずがない。
慌てて教授を探す。
しかしながら、この研究室は、ほかの所と比べて物が多すぎるし、雑に積まれている。
巨大地震が来ようものなら、悲惨な現場になりそう。
片付けとか雑務とか、もっと生徒に押し付ければいいのに、と思う。
「長潟教授ー?」
「さ…、わかわ…、く…」
「教授!?」
崩れたパイプ椅子の下に、教授はいた。
いそいそと椅子をどかし、教授を引き上げた。
相変わらず、貧相というか…、華奢な体だ。
「教授、何してたんですか?」
「あー、あはは…、あの、実験中に眠気に負けて床に倒れこんだ所までは覚えてるんだけど、起きたらこうなってた。僕も歳だなぁ」
「歳は関係ないです。ちゃんと寝る場所で寝てください。あと、片付けも」
「まったくその通りだね…。澤川くん、10も離れてるのに、お母さんみたいなこと言うんだね」
「お母さん…」
「小さいときからこんな感じだからね、よく小言を言われていたのを思い出したよー」
「教授は一人暮らし、いつからなんです?」
「んー…、大学生からだから、11年くらいなるかな~」
「…、11年も一人で暮らしてるなら家事くらい…」
「ははは…」
頼りなく笑う教授が、ずり落ちたメガネを指で押し上げている。
その指も、真っ白で骨みたいにガリガリだ。
栞ちゃんが揶揄している通り、撫で肩だ。
それが、より一層、彼の頼りなさを助長している。
「はい、おにぎり」
「え?」
「教授、どうせ何も食べてないでしょ?」
「あー、そういえば。昨日の差し入れ以来、何も食べてない」
「…、そのうち死にますよ?」
「澤川くんがいるうちは大丈夫かな」
「…、教授、俺、留年する気ないですからね?」
「ははは…」
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