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第8話

"美徳"なんて、初めて言われた。 長所も短所もない自分だと思っていたから、かなり嬉しい。 「…、澤川くん、嬉しそうだね」 「はい。長潟さんに褒められたので」 「そういうところ、年相応って感じがしてホッとするよ。澤川くん、20歳だったっけね」 「年相応って…、まあ、よく老けてるって言われますけど…」 「大人びているってことだよ。僕にとっては羨ましいけどね」 教授、ちょっと悲しそう。 まあ、30歳になって、俺と同級生だと思われたのがショックだったのかな。 「はーい、お待たせしました。お先にしょうが焼き定食ね。鯖味噌、すぐ持ってくるから」 「ありがとうございます」 そして、すぐに鯖の味噌煮定食も出された。 「長潟さん、どうです?食欲、湧きます?」 「う、うん。すごく美味しそうだと思うよ。それに僕、拒食症ってわけじゃないから、出されたら、食べれるよ?」 「そうですけど…、でも、どうせなら美味しいと思えるものでお腹を満たして欲しいじゃないですか」 「ふふ、澤川くん、優しいんだね」 「そんなことないです…」 誰にでも優しいわけじゃない。 教授だから、喜んで欲しいし、俺の知る一番美味しいものを食べて欲しい。 「いただきます」 「じゃあ、僕も、いただきます」 教授が口に運ぶのを確認してから、俺も手をつける。 「美味しい!澤川くん!これ、美味しいよ!!」 大きい声に驚いて、目の前の人に目を向ける。 教授がキラキラした目で、俺に興奮を伝えてくる。 「しょうが焼きってこんなに美味しいっけ!?えええ、感動した!」 「はは、長潟さん、子供みたい」 「だって、これは感動ものだよ!!」 普段見ないくらい、パクパクとご飯を頬張る長潟教授を笑いながら、食事を取った。

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