13 / 63

第13話

とりあえず入ったカフェで、教授はカプチーノのラテアートを眺めている。 「…、長潟さん、苦いのダメなんですか?」 「いや…、ぜんぜん苦手とかじゃないんだけど、ブラックコーヒーも飲もうと思えば飲めるんだけど…、誰かさんのせいで頭回らないから糖分を…」 「そうですか。早く飲まないと冷めますよ?」 「わ、分かってるんだけど…、このアート、すっごく良い…」 猫のラテアートを目を輝かせながら眺めている。 「可愛いですね」 「ほんとだよね~、惜しいけど飲んじゃおう」 「長潟さんが、可愛いですね」 「ゴホッ!?ゲホッ、ゲホ…、何!?」 「あー、勿体無い」 「今のは、10割澤川くんのせいだからね!?」 「可愛いものに可愛いって言って何が悪いんですか?」 「可愛いって…、僕、君の10コ上なんだけど」 「年なんか関係ないです」 「うーん…、僕には威厳がないのかなぁ…」 「長潟さん、ひげになってますよ」 「ひげ?」 教授の上唇の上にカプチーノの泡がついていた。 ポカンとした顔の教授の口を指で拭う。 「あ、ついてたなら言ってくれたら、自分で拭くのに」 「あま…」 その指を口に入れると、泡だけなのに、甘ったるい味がした。 「うわあああ!?な、なっ!?舐めた!!」 「シーっ。ほかのお客さんに迷惑ですよ?」 「うう…」 心なしか、泣きそうな顔をしている。 「イケメンだからって、何でも許されると思ってるでしょ」 「思ってないです。俺、イケメンですか?」 「十中八九ね。今の、その辺の男性がしたら、セクハラだからね」 「…、俺はセクハラにならないですか?」 「…、どうなんだろう…、僕にとったらならない、かな」 「それって、嫌じゃないってことですよね、長潟さん」 「そ、その聞き方はずるいと思うんだけど…」 「俺が突っ走ってるのは分かってます。でも、大学じゃこんなこと聞けないので」 「う~ん…、嫌悪感はないけど…、迷惑かな」 「…、俺、迷惑でした?じゃ…、邪魔ですか?」 「いやいや。澤川くんと話したり、こうして出かけたりするのは、楽しいよ。でも、さっきみたいな…、ドキっとするのは…、心が乱されるというか、自分じゃなくなるというか…、迷惑かな」 「じゃあ、長潟さんは俺が嫌いなわけじゃないんですね?」 「嫌いだなんて!好きだよ。あ、違くて、人として好きっていう話で…」 自分で言った「好き」に動揺するなんて…、可愛い。

ともだちにシェアしよう!