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第14話

「長潟さんに、恋愛対象として見てもらえるよう、これからも頑張りますね」 「え、えぇ…、なんでそうなっちゃうの…」 教授は困惑しつつ、カプチーノを飲んでいる。 赤いマグカップを支える白くて華奢な手が、とても綺麗。 「長潟さん、手、華奢ですよね」 「コンプレックスなんだよね。前に、女生徒と比べたら、僕の方が小さかったんだよね。まぁ、彼女が170cmもあるような子だったんだけど」 「爪も整えてるんですね」 「ずぼらなんだけど、爪は、ね。研究の妨げにもなるし」 「長潟さんの手、好きです」 「…、今度はパーツを切り取って褒め始めたね」 「ふふ、もう慣れちゃいました?」 「そうやって揺すってくるから可愛くないよね、澤川くんは」 「揺するだなんて…、本心です。好きです」 「ひぃ…」 それから、少しだけ研究の話をして、お店を出た。 さっきまで快晴だったはずの空が、暗い灰色の雲に覆われていた。 「天気、怪しくなってきたね」 「そうですね。今日、雨の予定でしたっけ?」 「さ、さぁ…。僕、テレビ見ないから」 「ですよね」 歩いていると、ポツポツと雫が落ち始め、数分後にはザーザーと音を立てて降り始めた。 「うわぁぁ、か、傘」 「この辺、コンビニありましたっけ?」 「僕、あんまり土地勘がないや…」 「…、俺もです」 近くの小さいコンビニを2軒回ったけど、どちらも突然の雨で傘を買う人が多かったらしく、売り切れだった。 「風邪引いちゃいますね」 「ど、どーしよう…」 ふと、ピンクの看板のホテルを見つけた。 「長潟さん、ここ…」 「え?うん?ホテル?流石にホテルに泊まるほどじゃ…」 「いや、えっと、泊まらないコースも選べます」 「え?あ、えぇ!?そっちのホテル!?」 「ま、非常事態なので」 「いや、流石に男2人は…」 「今や、ダイバーシティの時代ですよ?偏見は良くないです」 「正論だけど、大げさだよ」 「行きましょう」 「ええええ!?」 渋る教授をズルズルと引っ張って、俺は入店した。

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