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第15話
部屋に入るまで、教授はずっとキョロキョロとしていた。
「長潟さん、使ったことないですか?」
「な、ないよ。女の子とは、その…、手を繋ぐまでしか…」
「女の子とは?」
「えっ?」
「男はあるんですか?」
「い、今、その話は関係ないでしょ」
「濁すってことは…」
「はい、この話はおしまい。早くお風呂に…」
耐えきれず、後ろから長潟さんを抱きしめる。
「わっ、さ、澤川くん!?」
「悔しいです。俺以外にも、長潟さんの可愛さに気づいて、自分のものにした奴が居ると思うと…、胸が焼き切れそうです」
「お、大げさだなぁ。過去だよ、過去」
「男でいいなら、俺でもいいじゃないですか」
「ぼ、僕だって好きでそういう関係になったわけじゃ…」
「どういうことです?」
「あ、いや…、その人の名誉に関わることだから、口外できないけど」
「…、なんですか、それ。レイプでもされたんですか?」
「いや、流石にそこまでのアレではないけど。ほら、この話はおしまい。お風呂お風呂」
「…、分かりました」
内心、まったく納得できないけど、これ以上問い詰めるのも可哀想だから、諦めることにした。
華奢な背中から手を離す。
「澤川くんって、体温高いんだね」
「そうですか?」
「雨に濡れたのに温かい」
「確かに、長潟さん、すごく冷んやりしてますね」
「そうそう。低体温症なんだよね。冬は手が震えて上手く実験ができないんだよ」
「ストーブ、直しましょう?」
1年生の時の冬の研究室を思い出した。
俺は寒さに強い方だけど、教授やその他の生徒は震えながら実験をしていた。
ストーブが故障したんだけど、教授が申請を忘れて、結局直さぬまま一冬を越した。
「そ、そうだね…、今年の12月頃かな」
「どうせ忘れちゃうんですから、明日直しましょう」
「え、えー…、覚えてたら、ね」
教授は、そういった施設の備品なんかを管理している人たちとの折り合いがあまり良くないらしく、何か壊れても先延ばしにすることが多かった。
それと、手続きがめんどくさいらしい。
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