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第17話
「あ、あの、澤川くん…、僕、お風呂に入りづらいんだけど…、って、うわあ!?」
俺を浴室から出そうとする教授を壁に押し付ける。
掴んだ手首は、驚くほど細く、冷たかった。
「えっ、ちょっと、澤川くん?」
「なんで、そいつはよくて、俺はだめなんですか?」
「ダメっていうか…、えっと…」
「俺だったらもっと優しくします。絶対傷つけないです」
「よ、よく言うよ。こんな力づくで押さえてるくせに」
「長潟さん」
「な、何…?」
真剣な顔で教授に詰め寄ると、教授はさらに怯えた顔をした。
力づくで捻じ伏せるなんて、教授を傷つけた奴と同じことをしていることは、頭の中ではわかってる。
それでも、なんとしても、教授に気持ちを受け止めて欲しいと、強要してしまう自分が抑えられない。
そっと顔を近づけ、今度こそ、教授にキスをした。
唇が触れた瞬間、先ほどまでの教授とは思えない力で抵抗されたけど、それでも俺を振りきることは出来なかった。
触れるだけのキスをして、顔を離すと、教授は俺を睨みながら泣いていた。
まさか、泣くほど嫌だったとは思わなくて、ショックを受けるとともに、取り返しのつかないことをしたと悟った。
「酷い…、澤川くんは…、他の人とは違うと思ってたのに…」
「すみません、俺っ…」
「離して」
「っ…、すみません」
言い訳なんか出来ないって分かってるけど、それでも教授に嫌われたくなかった。
これ以降、一切、俺にたいして笑いかけたり、話しかけたり、してくれなくなるかもしれない。
そう考えると、手足の先から冷たくなっていく感じがした。
手を離すと、教授は俺の横をすり抜けて浴室を出て行った。
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