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第43話

急いで部屋に戻ると、澤川くんの姿はなかった。 焦って探し回ったら、お風呂のほうから水音がして、ホッと息をつく。 良かった、部屋のお風呂に入ってるだけだ。 確認したところ、鍵はかかっていない。 入るかどうか迷った末、僕は意を決して扉を開けた。 澤川くんは、体を洗っている途中だった。 驚いて僕の方を見たけれど、目が合うと、また冷たい表情に戻ってそっぽを向く。 「あ、あの…」 「すみません、出て行ってもらえないですか?」 「っ、やだ!僕はっ…」 「俺、今、雪さんに何するか分かんないです。傷つけたくないんで」 「いいよ」 「え?」 「澤川くんにだったら何されてもいいから…」 躊躇いつつも、浴室に足を進める。 「俺が嫌なんです…」 搾り出すような声で言われてハッとする。 そりゃそうだよね… 他の人、ましてや以前から関係のあった滝田教授に痕を付けられた奴となんか、一緒に居たくないよね。 「ごめん…」 「俺、どんな理由があっても、雪さんにひどい事したくない」 「え?」 「今まで立場を利用して、雪さんを傷つけた人たちと同じこと、したくないんです」 「同じじゃないよ…、澤川くんはあの人たちとは違うから、だから…そっち行っても良い?」 そう言うや否や、腕を引かれ、ぶつかるようなキスをされる。 息をつぐ暇もないほど貪られ、頭がボーっとする。 「ふぁ…、痛っ!?」 いつのまにか離れた唇が、僕の首筋に強く吸い付いていた。 「これで、上書きです」 鏡を見ると、キスマークなんて可愛いものではなく、紫色の内出血がうなじに広がっていた。 「これっ、2日じゃ消えないよ。しかも大きいし…」 「消させるつもり無いですから」 「なっ…」 そういう問題じゃないって言いたかったけど、痣っぽいし、バレても打撲ってことにしておけばいいか… それに、これも澤川くんの独占欲の表れだと思うとちょっと嬉しくもある。 「ひっ…」 満足げに鏡を見ていると、ズボン越しに下腹部を刺激される。 「雪さん、半勃ちですね」 「だ、誰のせいだと…」 「ここ、お風呂ですよ?早く脱いでください」 「ううっ…、だって必死だったし…。お風呂でも浸かって待ってて」 「はーい」 さっきとは打って変わって、澤川くんはニコニコしている。 許してもらえた…、んだよね? その時の僕は、なぜか楽天的に構えていた。

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