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第48話
その日の晩ご飯は豪勢な和食だった。
自分で予約したくせに、あまりの豪勢さに驚いてしまった。
「さ、澤川くん」
「何ですか?」
「もし、余裕あるなら僕の分も食べていいからね」
「…、教授は食べなきゃだめ」
「で、でも…、この量は僕にはハードルが高すぎるよ」
「じゃあ、入る分は教授が食べてください」
「う、うん…」
必死に料理を食べ進めていると、また仲居さんが料理を運んできてくれた。
「蟹のしゃぶしゃぶでございます。こちらのお鍋用でお召し上がりください」
「すげぇ!雪さん!かに!!殻ごと出るやつ初めて見た!」
僕としては立派すぎて、足1本で十分なんだけど、澤川くんが嬉しそうで何より。
「雪さん…」
「え、な、なに?」
さっきまで嬉々として蟹を食べていた澤川くんが、突然、グスグスと鼻を鳴らし始めた
な、なんで泣きそうなの!?
「もう…、旅行の折り返し地点なんれすよ…、俺、寂しいです」
「折り返しって…、そりゃ、一泊二日だし」
「なんれ、雪しゃんはそんなにドライなんれす!?」
「澤川くん…、もしかして酔ってる?」
「酔ったことないからぁ、分かんないれす!」
そんなキリッとした顔で宣言されてもなぁ…
澤川くんが7月生まれ(夏樹だしね)で20歳を超えたことと、「お酒を飲んでみたい」という本人の希望で、軽めのカクテルを注文したんだけど…
まだ1杯目なんだよね…
まあ、20歳なりたての初心者だからしょうがないか。
澤川くんは、泣き上戸になるっぽい。
「でも、そんなに悲しまなくても、近距離だったら今年また行ってもいいし、忙しいなら来年とか卒業してからでも行けるじゃない?」
「え?」
「…え?」
「雪しゃんっ、来年も再来年も、卒業しても、一緒にいてくれるんれすか!?」
「えっと…、澤川くんが良ければ、だけど」
「何言ってんれす!俺は、雪しゃんとずっと一緒がいいれす」
「あ、えっと、ありがとう。でも、もうそろそろ、"雪しゃん"は止めて欲しい」
僕、30超えてるんだけど…
「じゃあ~、…雪」
「ブフォッ!?」
「あ~、勿体無い」
思わず飲んでいたお酒を吹き出してしまった。
こんなベロベロなのに、名前呼ぶときだけイケメンになるの止めて欲しい。
何で僕は10歳も下の子に翻弄されているんだろう…
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