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第49話
食事が終わると、お布団を敷いてくれるとのことで、海辺を散歩することにした。
海辺の夜は、夏でも少しひんやりしている。
「澤川くん、大丈夫?ちゃんと歩ける?」
「大丈夫です。なんか、醒めてきました」
「そう、よかった」
「…、すみませんでした」
「はは、いいよ。その代わり、僕がいないところでは飲まないでね」
「気をつけます」
さっきとは打って変わって、澤川くんはしょげている。
お酒デビューだからしょうがない。
でも、これがお互い呑み慣れていない同士だったらと考えると…、かなりカオスなことになりそう。
「すごいね。夜も綺麗だね」
「パンフレットに、星空と街灯のバランスを計算しつくしたって書いてありました」
「そうなんだ。近くにこんな綺麗な所があったなんて…、出かけてみるものだね」
「じゃあ俺、いいところ見つけたら、雪さんを誘いますね」
「ははは、日程の調整がんばるよ…」
「はい!」
体育会系って感じの元気のいい返事。
「そういえば、澤川くんってなんのサークル入ってるの?」
「えっと…、部活なんですけど、バスケやってます」
「部活か~…、じゃあ、澤川くんも忙しいでしょ」
「う~ん…、高校の時のほうが、気持ち的には忙しかったです」
「そうなの…、兄弟は?」
「兄弟?…、弟と妹が一人ずついます」
「似てる?」
「う~ん…、妹は似てると思いますけど、弟はあんまり…」
「へぇ…、いいなぁ。僕、一人っ子だから」
「じゃあ、可愛がられたんじゃないですか?」
「いや…、あんまり」
「そうですか…。っていうか、珍しいですね、雪さんが俺に質問するの」
「え、そ、そう?嫌だったかな?」
「全然そんなことないです!興味もっていただけて嬉しいです」
「良かった。僕、全然澤川くんのこと、知らなかったから…、言いたくないことは言わなくていいからね」
「はい。でも、俺、雪さんに知ってもらいたいし、知りたいです」
「そっか」
「雪さんも、言いたくないことは言わなくても良いですよ」
「ふふ、大丈夫。そのうち言うから」
「ずっと待ってます」
「うん」
あとは黙って海岸線を歩いた。
澤川くんは、僕からすればずっと幼いけれど、たまに歳以上に寛容なときがある、
恥ずかしいけど、時たまそれに頼ってしまう。
その澤川くんのバランスがとても心地良い。
僕も、前に進まなくてはいけないのだと思う。
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