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第3話

「拓人はやっぱり進学? 演劇関係とか?」 「んー、いや。演劇はなんとなく部活入ってやってただけだし、第一志望は早大の理工学部だよ。まあ、サークルとかで趣味程度にって感じ?」 「ふーん」 「純は彼氏のとこで働くんだっけ?」 「うん、そうしようかなって思ってたんだけど──」 「純……!」 「っ!?」  突然名を呼ばれ、校門の前に立っていた男に腕をがしっと掴まれて、純は目を大きく見開く。 「えっ────にい、ちゃん?」  純と同じ淡い茶色をした髪に、ヘーゼルブラウンの瞳をもつ彼は、純の腹違いの兄、誠一だ。純と違って精悍な顔立ちをした彼は、身長も一七八センチと純より十六センチも高い。彼は今までアメリカに留学にしていたはずだが、おそらく先月帰ってきたのだろう。 「お前、今までどこ行ってたんだ? 心配したんだぞ」  そう言って肩を強く掴んでくるが、最後に会ったのは一年以上も前だし、口を利いたのなんて六年ぶりなのだ。そんなことを言われる筋合いではない。  純が親に借金を押し付けられても連絡の一つも寄越さなかったくせに、何を今更……と思う。  誠一の腕を払って隣を見れば、拓人が困惑した様子で立ち止まっていたので、純は眉尻を下げて両手を合わせた。 「ごめん、先帰ってて」 「……大丈夫か?」  兄に聞こえないようにか小さな声で心配してくれる彼にこくりと頷く。 「……じゃあ、また明日」 「うん」  手を上げて拓人を見送ったあと、純は兄に向き直り、眉を顰めて彼を見上げる。 「……なんだよ今更。俺のこと嫌いだったくせに」 「今更、か」  少しきつい口調で咎めるように言えば、誠一はぽつりと呟いて黙ってしまう。だが、しばらく沈黙が続いた後、彼はばつが悪そうに口を開いた。 「悪かった。でも、お前のことを嫌ってたことは一度もないぞ」 「は?……無視してたくせに」 「母さんがあんな態度だったから……俺がお前と仲良くすると益々お前が酷い扱いを受けるだろう。それで、どう接したらいいか分からなくて関わらないようにしてたが、お前のことは可愛い弟として、──大事な家族だと思ってる」  彼は一旦言葉を区切ったあと、強い口調でそう言った。今まで嫌われているとばかり思っていた純はその言葉をどう受け止めたらいいか分からなくて、俯いてしまう。 「……そう、なんだ」

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