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第6話

「あ、えっと、この人が今一緒に暮らしてる杉田正和さん」 「はじめまして。杉田正和と申します」  余所行きの顔をした彼は、そう言ったあと丁寧にお辞儀する。まるで貴族のような優雅な動きに、純も誠一も目を奪われた。なんだか今日の正和は別人みたいにしっかりしている。 「……それで、こっちが俺の兄ちゃん」 「はじめまして。純の兄の誠一です」 「どうぞ、お入りください」  そう言った正和に、純も普段あまり立ち入ることがない応接室に通される。  誠一が無遠慮に革張りのソファへ腰掛けると、それは僅かにギギッと(きし)んだ。純も彼の隣へ控えめに腰を下ろし、正和は向かい合って座る。 「──純は今こちらで暮らしていると聞きました。何から何までお世話になって、ご迷惑をおかけしてしまってすみません」 「こちらこそ相談もなく勝手に引き取ってしまって申し訳ありませんでした。さぞ心配されたことでしょう」 「心配はしましたが……あなたのような方が側にいて純も心強かったと思います。純が無理を言って押し掛けたのでは?」 「いえ、一人では色々大変かと思い、私のほうから一緒に暮らす事を提案したところ、快諾していただけました。……お恥ずかしながら本当は私が寂しかったのですが」  冗談混じりにそう言ってはにかんだ正和を見て、少しむず痒くなる。  いつもと口調が違うのもそうだし、最初は体を好き放題したくせに、後ろめたい表情を見せずによく言えるものだと感心する。嘘は言っていないし、もちろん本当の事は話せるわけがないけれど。 「────」  誠一が口を開きかけると、トントンと扉をノックする音が響いた。正和以外に誰かいたことに驚いて純も扉を凝視する。その瞬間、それは静かに開いてトレーを持った女性が部屋に入ってくる。 「失礼いたします」  兄が来ると聞いて、わざわざ人を呼び寄せたのだろうか。  彼女は誠一から順に紅茶の入ったカップとクッキーの乗った皿を置いていくと、お辞儀をして静かに出て行った。  再び三人になり、なんとも言えない空気に耐えかねて、純は視線を下に落とす。繊細で華やかな絵柄のソーサーをじっと見つめながら、彼らの話が早く終わることを願った。 「純から少し聞きましたが、借金はあなたが……?」 「はい、昨年の十月に全額返済させていただきました」 「その節はありがとうございました。本当に……助かりました」  感極まったような兄の声音を聞いて純は隣を見上げる。彼の表情から本当に家族として心配してくれていたんだということが窺い知れて、胸がじぃんと熱くなる。

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