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第7話

「いえいえ、私も純くんが来てくれて助かっているんですよ」 「そう言っていただき恐縮です。……ですが、これから純はうちで面倒みますので──」 「兄ちゃん……!」 「なんだ?」  誠一の話を遮るように呼びかけたので、彼は不思議そうに首を傾げた。  だが、実家に連れ戻そうとしている兄の言葉を聞いて、純も黙ってはいられない。 「正和さんは……助けて、くれて」 「ああ」 「だから、その……恩返しも、まだできてないし」 「一緒にいたってご迷惑をおかけするだけだろう」  誠一の言うことは客観的に見たら正論で、何も言えなくなってしまう。二人が付き合っていることを知らないから当然の反応だ。  純は唇の内側をぎゅっと噛んで俯くが、正和はにこりと笑って、なんともない顔で話を続けた。 「そんなことはないですよ。身の回りのことをやっていただいて、本当に助かっています。なので、できればこのままいてもらえると嬉しい、というのが私の本音です」  誠一も無理に連れ帰る気はないらしく「そうですか」と静かに返答する。それを見て純はほっと胸を撫で下ろした。  やはり自分は口を出さない方がいいのかもしれない、と先ほどの発言が少しだけ恥ずかしくなる。 「ちなみに返済額はあとどれくらいですか?」 「……と、言いますと?」 「借金に加え学費まで払っていただいたそうで、結構な額だと思うんですが」  話しづらそうに眉尻を下げた誠一からは、いつもの不遜な態度は全く見えない。 「ああ、それなら私が勝手にしたことですから、お気遣いなく」 「いや、でもそういうわけには……純、生活費くらいは入れてるんだろうな?」 「え? あ、いや──」  突然話を振られて、純は背筋を伸ばす。どもりながらなんとか答えようとすれば、正和が代わりに口を開く。 「僭越ながら、純くんには学業に専念してもらいたいので、バイトは禁止しております。ですので、一切いただいておりません」 「…………」 「もちろん請求するつもりもありませんので、将来仕事で会うことがあればその時にお力添えいただけると大変助かります」  笑みを浮かべた正和に、誠一は更に眉尻を下げた。 「なんと言ったらいいか……本当にありがとうございます」  そう言って深々と頭を下げたあと、誠一は熱そうな紅茶に手を伸ばす。 「……誠一さんは留学されていたと聞きましたが、今はお仕事を?」 「あーいや、留学していた関係で卒業が秋になるので、仕事は十月からの予定です」 「そうですか」  正和もカップを手に取り、ゆっくり口元へ運ぶ。それを見た純も緊張で乾いた喉を潤そうと、僅かに震える手でカップの取っ手を摘んだ。

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