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第8話

「純……さっきから気になってたんだが、その指輪……」  カップに口づけようとした時、こちらを向いた誠一は控えめに尋ねてくる。小さな声だけど、静かな室内では正和の耳にも届いただろう。 「えっと、これは……」 「この人と同じだよな」 「っ……」  鋭い指摘に純はカップをソーサーに戻して、カップの取っ手を摘んだまま固まった。指輪の付いた左手に視線を落として、無意識にぎゅっと握りしめる。 「まさか……付き合ってるのか?」  どう答えたらいいか分からなくて、純は助けを求めるように正和をチラッと見て押し黙った。 「────はい、お付き合いしております。ご挨拶が遅くなり大変申し訳ございませんでした」  正和はソファから立ち上がると、誠一に向かって深く腰を折る。  しーんと静まり返った室内に、純の胸がドキドキと早鐘を打った。誠一は眉を顰めて固まり、次第に表情が険しくなる。 「──純、別れろ」 「は? なんで」 「男同士で付き合うのは認めない」  嫌悪感剥き出しの表情でそう言った誠一に、先ほどまでの遠慮がちな雰囲気はない。いつもの人を見下したような態度を露わにし、正和に対しても冷ややかな視線を向ける。 「っ……兄ちゃんには関係ないだろ!」 「関係なくない。大事な家族だって言っただろ! 助けてもらったから情が移ったんだろうが、絶対後悔するに決まってる」 「そんなこと……!」  ソファを立ち上がり強く否定しようとすれば、兄も立ってその言葉に被せるように言ってくる。 「それに恩の返し方なら他にいくらでもあるだろう」 「恩とかそういうのじゃなくて、正和さんのことが好きだから──」 「なら尚更だめだ。一緒に帰るぞ」 「は? なんで?」 「学生の分際で同棲なんて認めない。それとお前、借金や学費のこと、本当にそのままでいいと思ってるのか?」 「それ、は……正和さんが、今はいいって……」  純は正和のことを見ながら眉尻をへにゃりと下げる。 「純。お前は今、周りが見えなくなってるだけだ。ここから離れて先のことも考えれば、今の状況がいかにおかしいか理解できる」 「~~っ……っていうか、助けてくれた人に失礼じゃん」  どうにか場を収めようと口を開くが、誠一の表情はいっそう厳しくなり、火に油を注いだだけだった。 「それとこれとは別だ。──杉田さん、純はうちで面倒みますので、つれて帰ります」 「兄ちゃ──」 「帰るぞ」  有無を言わさぬ口振りに純は唇をぎゅっと噛む。

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