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第9話

 縋るように正和の顔を見上げれば、彼も困った表情でこちらを見つめていた。 「正和さん……」 「うん、一回帰ったらいいよ。久しぶりに会うんだし、積もる話もあるでしょ? それに、お兄さんの言う通り今は家族と一緒にいるべきだよ」 「っ……でも」 「純、荷物持って来い。どうせ少ないんだろう?」  反論しようと口を開くが、それもすぐに誠一の言葉によって遮られてしまう。 「使わないものとかあったら置いてっていいよ。持ってくの重かったら、言ってくれればあとで送るね」  正和まで畳み掛けるように促してくるものだから、目頭がかあっと熱くなる。 (そんな……なんで、正和さんまで) 「純、早くしろ」  実家へ帰る方向で話がまとまってしまって、純は呆然と自室へ向かう。  新婚旅行で使ったトロリーバッグを引っ張り出してくると、ついこの間の結婚式を思い出して悲しくなった。じわりと浮かんだ涙をシャツの袖で拭って、教科書や身の回り品をそこに詰めていく。  荷物をまとめて廊下に出ると階下から何やら騒がしい声が聞こえてきた。誠一がまた何か正和に言っているのかもしれない。  階段を下りて廊下に出ると、玄関で靴を履いた誠一と頭を下げる正和の姿が見えて、純も彼らの近くまで行く。 「申し訳ございませんでした」 「今度純に──、……準備できたのか」  何かを言い掛けていた誠一は、純の姿に気付くと言葉を飲み込み、問いかけてくる。純はブスッとした顔でそれに小さく頷いて、正和のことをチラッと見た。 「純がお世話になりました。──ほら、行くぞ」 「あ……」  誠一が荷物を奪うように掴んで、玄関の扉を開ける。出て行きたくなくて、手をぎゅっと握り締めてその場で固まっていたら、正和にぽんっと肩を叩かれた。 「またね」 「っ……」  まるで朝に「いってらっしゃい」と言うかのような普通の態度に、モヤモヤした気持ちになりながら靴を引っ掛けて無言で家を出る。けれど、やっぱり悲しくて、最後にもう一度振り返るが、その時には誠一が乱暴に扉を閉めた後で、彼の顔を見ることは叶わなかった。  ゴロゴロと音を立てて荷物を引く兄の後ろをトボトボ歩いて、三十分程すると懐かしい実家が見えてくる。  久しぶりに中に入ると純が出てきた時とは違い、入口やリビングに無造作に荷物が置いてあり生活感が溢れていた。 「……父さんと母さんは?」 「離婚して父さんは仕事で海外に行っている。当分帰ってこれないそうだ」 「離婚?」  予想外の言葉に純は思わず聞き返して、首を傾げる。 「ああ、純に借金を押しつけたのは母さんだが、父さんは酷く後悔していてな。そのあとすぐに離婚したそうだ。『すまなかった。今までつらい思いをさせた』と言っていた」

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