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第14話
咎めるように、けれど、優しく促すように名を呼ばれて、純は眉尻をへにゃりと下げる。
純はこの声にとりわけ弱いのだ。こんな風に言われると、魔法がかかったみたいに彼の指示通り手が動いて、親指で蜜口を塞いでしまう。
唇をぎゅっと噛んで、恐る恐るトパーズの石がついたピアスキャッチを転がせば、敏感になった精路に刺激がダイレクトに響く。
「あうう…っ、ゃ、あっあぁ」
隣室に兄がいることも忘れて嬌声をあげ、腰をびくん、びくん、と震わせて、背を仰け反らせる。手の中で絶頂を迎え、余韻に浸っていると彼の吐息も荒くなる。
「純……っ」
切なげに声を震わせて、切羽詰まった様子で純の名を呼び、やがて落ち着いた。
けれど、心身共にすっきりすると、途端に虚しくなってくる。
「正和さん……」
「──なぁに? 寂しくなっちゃった?」
「うん…………帰りたい」
「ふふ」
毎日思っていることをぽつりと漏らせば、彼は何故か楽しそうに笑う。あまり寂しがる様子もなく余裕な彼の声を聞いて、純は少しムッとしながら返した。
「何? なんで笑うの?」
「いや、こっちを自分の家だと思ってくれてるんだなぁって思って」
無意識に言っていたことに気付かされて、顔がじわじわと熱くなり、いつもの癖で下を向く。
「だって……ふ、夫婦だし」
「嬉しいよ」
そう言った彼の声が本当に嬉しそうで、顔を見なくても優しい笑みを浮かべているのが分かった。
「それで、さっきの続きなんだけどさ」
「……なんだっけ?」
「やっぱり聞いてなかった」
彼はそう言って、今度は苦笑する。
「ご、ごめん」
「いいよ、可愛い声が聞けたからね」
いじわるな声でそう言ってくるものだから、恥ずかしくて全身が熱くなる。
「っ……それで、なんの話?」
居たたまれなくて、足をもじもじさせながら急かすように話を振れば、予想外の答えが返ってきた。
「お兄さんに土曜か日曜、時間とってもらえるようお願いできる?」
「え、なんで?」
「純のこと迎えに行くから」
「っ……!」
純は目をぱちくりさせて、スマホをぎゅっと握りしめる。
「──って言っても、すぐには連れ帰れないと思うけどね。とりあえず改めて挨拶して、認めてもらえるように話をするつもりだよ」
穏やかに話す彼の声音が心地よくて、胸がじんわり熱くなり、想いが込み上げてくるのを感じる。
「正和さん……」
「んー?」
「……好き」
「うん。俺も愛してるよ」
いつも以上に甘い声で返されて、なんだか凄くくすぐったい。けれど、そんな余韻に浸る間もなく、彼は話し掛けてくる。
「あ、あと、お兄さんの好きな物も教えて」
正和は兄と仲良くなる手立てを真面目に考えているようで、しばらくはそんな会話が続いた。
離れているけれど、心の距離は変わらないことに安堵して、ずっと感じていた寂しさはいつの間にかなくなっていた。
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