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第16話
「俺は純に家族も大事にしてほしいし、その上でずっと一緒にいたいと思ってる。もちろん、何度も話してそれでもダメなら仕方ないけど、もっと二人で考えよう?」
「…………」
「まずは会えるようにお願いしてみよっか」
悪巧みをしているような顔でニコリと笑った彼の言葉に、純は首を傾げる。
「……どうやって?」
「同棲とかお泊まりはダメだとしても、会うのもダメっておかしいと思わない?」
「思う、けど」
「だからさ──」
彼は顔を近付けると耳元でひそひそと話す。だが、彼にしては安易な作戦で、純は眉を顰めて彼を見上げた。
「それで許してくれるかな…? もっと怒らせそうな気もするけど……」
「さっきの雰囲気なら大丈夫そうな気がするけど……まあ賭けだよね」
そう言って、正和は純のベッドに腰を下ろす。
「正和さんも一緒にきて……?」
「俺が行っても拒絶されてるから無理だと思うよ」
そんなの俺だって、と思ったが、正和の言う通り、誠一は正和の言うことに耳を傾けるつもりはないのだろう。
自分より年上だから丁寧に接してはいるが、上辺だけの対応で受け入れるつもりがないことは一目瞭然だ。
「────お茶、とってくる」
「うん、待ってる。うまくいったら純にご褒美あげなきゃね」
ご褒美、と聞いて顔が赤くなりそうになるが、唇をきゅっと噛んで部屋を出た。考えを纏めながら階段をゆっくり下りてリビングに行くと、ソワソワした様子の兄がこちらを向く。
「……杉田さんは?」
「上で待たせてる」
そう言いながら冷蔵庫を開けて、中から取り出したお茶をグラスに注ぐ。
「明日正和さんと出かけてもいい?」
「……だめだ」
「泊まってこないよ。夕方には帰るし」
「当然だ。だが、あの男と二人で会うのは許さん」
正和の助言通り話を振ったが、兄は頑なに首を縦に振ろうとはしない。もちろんそうあっさり頷くとは思っていないが、純は感情的にならないように静かに抗議する。
「……兄ちゃんが俺の交友関係に口を出すのはおかしいと思う」
「お前らは付き合ってるだろう」
「そう、だけど……でも別に何も悪いことしてないじゃん。もし付き合ってるのが女の子だったらそこまで言わなかったんじゃないの?」
「それは──」
「兄ちゃんは男同士に偏見持ってるだけだろ。正和さんは俺のこと凄く大事にしてくれてる。兄ちゃんがいない間、借金のことだけじゃなくて、ほんと……色々あったんだよ。そういうの全部乗り越えて、喧嘩することもあったけど、これから先ずっといたいと思ったんだ」
今までのことを思い返して、次第に意志の強いはっきりとした口調になる。それが兄にも伝わったのか、彼はいつものように純の話を遮って否定したりもせず、大人しく聴いていた。
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