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第17話

「後悔するって言うけど、別れたとしても俺は他の人と付き合う気はないし、別れることになったらそれこそ一生後悔する。何を言っても別れるつもりはないし、あんまり言うなら隠れて会うから」  先ほど正和に注意されたばかりだけど、ついつい壁を作る様な言い方をしてしまう。  けれど、それが効いたのか兄は難しい顔をして鼻から大きく息を吐くと、渋々といった様子で頷いた。 「──わかった。会うのはいいがあまり遅くなるなよ。それと…………」 「何?」 「……いや、なんでもない」  何かを言いたげにしていたが、兄は言いづらそうに口を噤んだ。  純にとってあまり良くない話だろうということは想像つくので深く問い質したりはせず、純はお盆にグラスを乗せて話を切り上げる。 「……明日はお昼頃出て夕飯までには帰るよ」 「わかった」  先ほどよりも軽い足取りで階段を上り、自室に戻る。だが、扉を開けると勉強机の引き出しを探っている正和の姿があって、思わず顔を顰めた。 「ちょっと! 何してんの!?」  扉を閉めて、あまり大きな声は出さないようにしながら、強めの口調で彼を問い詰める。 「いやぁ、ベッドの下に何もないから、こういうとこに隠してるのかなって」 「は!? 何が!?」 「だから──」 「いや、言わなくて言い! そんなのないし。まず持ってないから」 「えー」  彼はわざとらしく口を尖らせて、開けていた一番下の引き出しを閉める。 「もーやだ。俺が兄ちゃんと話してる間に何やってんだよ……」 「だって、純の部屋初めてだし。次いつ来れるか分からないから。……怒った?」  彼は眉尻を少しだけ下げて聞いてくる。そんな風に言われたら怒る気も呆れた気持ちも吹き飛んで、純は彼から目を逸らして小さく答えた。 「別に、怒ってはないけど……」  お盆を小さなテーブルに乗せてベッドに座ると彼も隣に座る。 「よかった。──それで、どうだった?」 「あーうん、帰りが遅くならなきゃ会うのは良いって」 「そっか。一歩前進だね」  彼はそう言って嬉しそうに笑うと、肩を抱き寄せてこめかみにキスを落としてくる。 「じゃあ、明日は久しぶりにデートできるんだ?」 「ん……そう、だね」 「どこ行きたい? 行きたいとこある?」  彼はどこへ行こうか楽しそうに考えているが、そう聞かれて今思い浮かぶのは一つだけだ。

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