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第18話

「正和さんの家」  即答すれば彼がくすっと笑う。 「なに?」 「お互いの家を行き来するのも、恋人っぽくて良いなって」 「なにそれ」  この状況を楽しんでいるようにも見える余裕な発言に、唇を尖らせて返せば、そこを指先でふにふにと弄ばれた。 「だって、そういうの全部飛ばしていきなり同棲だったから新鮮じゃない?」  そう言われても恋人らしいデートは何度かしているし、ずっと彼の家に住んでいた身としては新鮮さは欠片も感じられない。  彼が自分の部屋に上がるのは初めてだけど、それを楽しむほどの余裕は今の純にはなかった。 「正和さん、前だったら凄い焦りそうなのに……変なの」 「……不安なの?」 「っ、別にそういうわけじゃ──」 「確かに前だったら焦っただろうけど、一生を共にするってこの間誓ったばっかだからね。純のこと信じてるよ」  そう言って優しく笑った彼は、以前よりも随分大人に見えた。  *  翌日、兄の分の昼食を用意し終えると、程なくして正和が迎えに来てくれた。彼は誠一に丁寧に挨拶したあと、帰りも送り届けると約束し、車の助手席に乗せてくれる。  行き先はリクエスト通り彼の家だが、途中スーパーに寄り道して食材の買い出しに付き合ってもらった。 「あ、そういえば身長伸びたよ」  学校内での健康診断を思い出して口にすれば、彼は運転しながらちらっとこちらを見る。 「へえ。どれくらい?」 「二センチ! 一六四センチだった」 「けっこう伸びたね。あとで見せてもらおうかな」 「一年で二センチだから三年後には一七〇までいくかも」 「ふふ、それはどうだろう」  実家と違って完全に二人きりの空間に、笑顔が戻り、自然と口数も多くなった。彼の家に着いて中に入ると、彼はスーパーの袋を下ろして、ぎゅうっと抱きしめてくる。 「おかえり」 「た、ただいま」  正和の背中にそっと腕を回し、抱き締め返す。そのまま胸に顔を(うず)めれば、大好きな彼の匂いに包まれた。 「……どれどれ」  しばらくして彼は体を少しだけ離すとまっすぐ立つように指示してきて、自分の体と照らし合わせて身長を確認する。 「んー?」 「……正和さんも伸びた?」 「いや、伸びてないよ」 「あ、靴! ちょっと厚みあるじゃん、それ!」 「ああ、ほんとだ」  純が指摘すれば彼はクスクス笑って靴を脱ぐ。純も靴を脱いで室内に上がるが、身長差は前と変わった気はしなかった。 「見慣れちゃってるせいか気付かなかったけど、前は顎に頭つかなかったよね」 「あ、そうかも」  そう言いながら、以前自分からキスした時のことを思い出して、顔がかあっと熱くなる。

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