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第20話

「……あーん」  気恥ずかしくてフォークに乗ったケーキより上は見れないけれど、そっと差し出せば彼は嬉しそうにそれを食べた。 「残りは純にあげる」 「え、いちごは?」 「いいよ。純が食べて」  彼はくすくす笑ってそう言うと、入れたばかりのお茶を啜って椅子の背にもたれ掛かる。 「……ありがとう」  ケーキを口へ運ぶと、甘さが口の中いっぱいに広がって満たされる。甘いけれど、後味はすっきりしていて、口内でほろりと蕩けるそれは、皿の上からすぐになくなってしまった。  食後はソファで寛いで、いつものようにスキンシップをとる。テレビもかかっていたが、会話が弾んでほとんど見ることはなかった。  「あのさ……正和さん」 「んー?」 「やっぱり、進学しようと思うんだけど……」  最近ずっと考えていたこと。なかなか言い出せなかったけど、言うなら今しかないと思った。少しだけ震える声でおずおずとそう言えば、彼は柔らかく微笑んで頷くようにゆっくり瞬きする。 「いいんじゃない? 志望校はあるの?」 「それは、まだ……っていうか、なんか、ごめん」 「なんで謝るの?」 「その、将来のこととか、勉強したい分野も全然、なくて……」 「そっか。でも今の内から決めてる人のが少ないんじゃないかな。俺も彰子さんに言われるがままだったし」 「そう、かな」 「うん。それと、俺に永久就職って言ったでしょ」  ニヤリと笑った正和は、純の腰を抱き寄せてこめかみに軽くキスを落とす。彼の唇が触れた所がじんわりと熱を持って、そこから広がるようにカァァと顔全体が赤くなった。 「っ……いや、そうだけど、そういうことじゃないじゃん」 「ふふ。まあゆっくり考えたらいいよ。とりあえず今の学力に合わせていくつか絞ってみたら?」 「うん、そうする」  彼にようやく伝えることができて、モヤモヤしていた気持ちが随分すっきりした。まだ兄のことなど問題は残っているが、進級する前からずっと悩んでいた進路のことを話せて良かったと思う。  彼はもとからしたいようにすればいい、と応援してくれていたけど、申し訳ないという思いから今まで自分の主張ができずにいた。  だが、今日こうして話すことができたのは、一度正和の元を離れ、兄と暮らし始めたことによって、客観的に見れるようになったからなのかもしれない。  そう思うと、兄の主張も正しいような気がしてきて少し複雑だ。

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