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第26話

「……久々に、二人っきりだったのに」 「うん、久々に純の寝顔見た」  嬉しそうに言った彼に、思わず唇を尖らせれば、触れるだけの軽いキスが降ってきて、純はさらに唇を尖らせる。 「明日は純の家に行くよ」 「え、ほんと? でもそんなに会って大丈夫かな」 「大丈夫だよ。それに勉強教えるって約束したし、本気で頑張らないとね」 「うっ……」  明日も彼と会って今の延長のような甘いひとときを過ごせると期待した純は、その内容を聞いて言葉に詰まる。  受験生の家庭教師として、という大義名分があれば兄も断ることはできないだろう。だが、そうなるとやはり今の時間を正和だけが堪能し、純が寝ている間に終わってしまったのが納得できない。 「……正和さんのばか」 「へえ」  そんなこと言うんだ、とでも言いたげに彼は目をスーッと細める。 「謝らないからね」 「別にいいよ。……じゃあ、来週は純が寝る暇もないくらいたくさん可愛がってあげる。それなら純も満足でしょ」 「へ……? いや、そういうことじゃないじゃん!」  言外に何度絶頂を迎えても簡単には失神させないと言われているようで、背筋がぞくりと冷たくなる。 「~~っ、……寂しいって言ってるだけなのに、なんでそうなるんだよ…」  自分で思ったよりも嘆くような声が出て、それを聞いた彼は苦笑しながら髪を梳いていた手を純の背中に回し抱き寄せる。  彼の胸元に顔がおさまり、安心する彼の匂いで満たされて体の力が抜けると、純も彼の背中にそっと手を添えた。 「……実家帰りたくない」 「じゃあ帰さない」 「えー」  そんな風にじゃれ合っているうちに時間はすぐに過ぎ、慌てて身支度をして来たときと同じように車で送ってもらう。 「また明日ね」 「うん」 「……純、荷物」 「あ、忘れるところだった」  彼に指摘されて後部座席からスーパーの買い物袋を拾い上げ、助手席のドアに手をかける。名残惜しさを堪えて車から降り、小さく手を振って彼が行くのを見送った。 「おかえり」  部屋に入ると兄はリビングのテーブルでラップトップ型のパソコンを広げ、レポートか何かをやっていた。  なんとなく顔を合わせたくなかった純は「自分の部屋でやれば良いのに」と思いつつ口には出さずに僅かに眉を顰める。 「……ただいま」  それ以降会話が続くことはなく、純はさっさとキッチン側へ行って手を洗い、夕飯の支度をする。  といってもリビングが見渡せるペニンシュラ型の対面キッチンなので、嫌でも兄の姿は視界に入る。

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