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第27話
「どれくらいでできる?」
「三十分くらい? でもご飯炊けるのもう少しかかるかも」
そう言いながら研いだばかりの米を入れた炊飯器のスイッチを入れる。
吸水させる時間がないが、今から水に浸けていたのでは遅くなってしまうから仕方ない。
「……そういや修学旅行の準備はできたのか?」
どうにか会話を続けようとする兄の方をチラッと見て、純は買ってきたトマトや人参を袋から取り出す。
「いや、まだなんもしてない」
「必要な物があるなら早めに言えよ」
「うん。……あ、必要な物は来週買いに行ってくる」
ふと思いついて、来週のデートは買い物に行くことに決めた。来週も会う予定でいるし、正和もたぶん付き合ってくれるだろう。
だが、それを聞いた誠一の声音は不機嫌そうに低くなる。
「────あの男と、か?」
「うん、車出してくれるし。あと明日から家庭教師として来てくれることになったから」
誠一は怪訝そうな顔をして、キーボードを叩いていた手を止める。
家庭教師はダメだとか、また何か言われるだろうか。そう思って野菜を洗いながら身構えていたのだが、予想外の答えが返ってきた。
「……そうか。明日は遅くなるから夕飯はいらない。あの男にでも食べていってもらえ」
「え……いいの?」
水を止めるのも忘れ、顔を上げて聞き返せば、兄は聞こえるように大きなため息を漏らす。
「ダメなら言わないだろ」
「そう、だけど。……何時頃帰ってくるの?」
「飲み会だから分からん。十時までには帰れると思うが」
「わかった」
何か裏があるんだろうか、と思ったが、兄はそんなことを考えるようなタイプではないので、少しばかり譲歩してくれたのだろう。
もしくは、家庭教師として、また借金を肩代わりしてくれた恩人として、最低限の敬意を払ったのかもしれない。
夕飯の支度を終えて、ご飯が炊けるまでの間にお風呂を済ませ、正和に連絡を入れる。
明日は兄の帰りが遅いこと、正和も一緒に夕飯を食べるよう勧めてくれたことなどを話せば、頑 なに拒んでいた兄が受け入れてくれたことに驚いたようだ。
さすがに食べている時に帰ってきたら気まずいし食べづらいから遠慮する、とは言っていたが、正和は大きな進展だと喜んでいる。
買い物デートに関しては二つ返事で了承してくれたので、純は早速必要な物を書き出すことにした。
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