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第28話

 翌日、学校が終わり正和と共に帰宅した純は、兄が不在なのをいいことに正和と二人きりで過ごせると期待したのだが、彼は宣言通り「家庭教師として」隣にいた。  少しばかり不満ではあるものの、昨年度の成績に鑑みると今から真面目に勉強しなくては受験に間に合わない。  それに、家庭教師として、だとしても彼と二人きりの時間には違いないので、素直に問題集を広げていた。 「……これほんとに数学? てか、今まで習ったことないよ」 「何言ってるの、純。教科書に載ってるの応用すればできるよ」 「だって、こんなの分かるわけないじゃん。それに雨なんて降る量コロコロ変わるし」 「この場合は一定の量で降ってると仮定して解くんだよ」  彼の言っていることはもっともだし、いくら苦手分野だとは言ってもそれくらいは理解しているのだが、難解な問題に頭を抱える。 「そうかもしれないけどさ……おかしい。こんなの日常生活で絶対使わないし」  眉間に皺を寄せて口先を尖らせれば、彼は純の頬にかかっていた髪を指先で掬い上げて、顔を覗き込んでくる。 「使うかもよ?」 「いつ」 「閉じ込められて鍵の解除にこういう問題が出てくるかも」 「それどんな状況!? 正和さんの嫌がらせ以外ありえないじゃん!!」 「いいね、解けるまで純にエロいことするの」  イイコトを思いついたとばかりにニヤリと笑って、良からぬ妄想を膨らませる正和の二の腕をシャーペンの消しゴム部分で軽くつつく。 「やだよ! ねえ、ヒント。ヒントちょうだい」 「んー、じゃあ──」  そんな調子で苦手な数学を見てもらった後、正和はあまり遅くならないうちに帰っていった。  兄に悪い印象を与えないためにと考えてのことだったが、誠一が帰ってくるのは早くても日が沈みきった後だろうし、もう少し一緒にいても良かったかもしれない。  そんなことを考えながら、正和が差し入れてくれたタッパを開けて、純は目を輝かせる。 「──角煮だ」  彼の作る豚の角煮は純の好物だ。思わず笑みが浮かんで、少しだけ味見をすれば、さらに目元まで綻んだ。 「ん、おいしい」  あったかければもっと美味しいだろうな、と当然のことを思いながら、ご機嫌に皿へ取り分ける。  他にも冷凍した作り置きの煮物や日持ちするものを何品かくれたので、しばらくは食事の準備も楽になりそうだ。

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