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第30話

 昼食後は眠気を堪えながら授業を受けて、帰りのHRが終わるとさっさと荷物をまとめる。だが、教室を出ようとしたところで、拓人に呼び止められた。 「何?」 「部活休みになったから一緒に帰ろーぜ。てか、どっか行かね?」 「あー……」 「やっぱ、無理か」  残念そうに、けれど予想通りといった様子でそう言って、廊下を歩きながら話を続ける。 「あれからどうなった?」  拓人には兄と再開した翌日に大まかに経緯と現状を話してあったが、その後の話は一切していないから、心配してくれているのだろう。 「今は家庭教師として家に来てるよ」 「へえ。少しは進展あった感じ?」 「うん、まあ。でもあんまり状況良くないかも」  そう言いながら靴に履き替えて小さな階段を下りる。 「まじかー。でも意外だなあ」  先を歩き出した拓人はポケットに手を突っ込むと、小さな石を軽く蹴り弾く。 「……何が?」  それを見て純も同じように石を蹴るが、アスファルトは意外と凸凹していて、思ったように転がらず、ころころと端の方へ逸れて側溝の穴に落ちていった。 「純のお兄さんは……なんて言うかこう、純の事には無頓着だと思ってたし、あの人の対応もいつもと違って大人だし」 「うわあ、さらっとディスられてる……」 「いや、悪い意味じゃねーよ?」  慌てた様子でそう言った拓人は、ばつが悪そうにポケットから出した手でこめかみをかく。 「分かってるよ。……俺も兄ちゃんがあんな風に思ってたなんて思わなかったし、正和さんがちゃんとしててびっくりしたし」  正和と同棲してた頃、拓人との待ち合わせや分かれ道となった交差点に差し掛かって、つい彼の家の方角を見てしまうが、当然ここからは見えない。 「でもさあ、なんだろうな。今まで散々避けてて、家の借金だって全部あの人が対処してくれたのに、今更って感じする。本当に純のこと考えてたら、進学を機に二人で家を出るとか他に方法もあった気がするんだけどなあ……。まあ部外者だから気軽に言えるんだけどさ」 「うん、それは俺も思う。今まで色々世話焼いてくれてたなら口出すのも分かるけど、そうじゃないのに言われても……。家族として大事っていうのは本当なんだろうけど、正直うざい」  兄と再開してから今まで愚痴を言うことがほとんどなかったから、つい本音を零せば、拓人は軽快に笑った。そして純より少し前に出ると、くるっと体を反転させて後ろ歩きする。 「てかさー、金持ちだし、ムカつくくらい見た目もいいし、普通に良物件じゃん。確かに男同士だけど、今時そう珍しくもないのに不思議だよな。まさかSMクラブ経営してるって言ったとか?」

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